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「お前って確か……高校生だったよな?」
その冷たい瞳は斑雪を捉えたまま、改めて質問する。
斑雪はどう答えていいのか迷っていた。
こんな店に高校生なんて普通は考えられない。
そもそも法的にアウトなのは、斑雪でも分かる。
それをゴリ押しで客を取らせるとか、正気の沙汰ではない。
今ここで何を言っても通じないと斑雪は悟り、押し黙る。
「あんなクソな兄の為に、こんなところまでノコノコやってきて頭大丈夫か?」
幽玄は揶揄うかのように、尋ねる。
「そんなっ! 確かにあの兄はクソでクズで本当にどうしようもない人間だけど……」
そこまで捲し立てて……斑雪の勢いは弱くなっていく。
「あんなのでも家族なの。もう家族を失いたくないの……」
そこまで言い、瞳から大粒の涙を落とした。
(両親が蒸発していたな、確か……)
幽玄は記憶から言葉の意味を探り出す。
両親がなぜ消えたのかは、幽玄のネットワークを使えば容易に分かることであろう。
生きているのか、死んでいるのか。
興味は無かったが、幽玄は初めてそんな涙を羨ましいと感じた。
そう思ったことに対して自分自身にビックリし我に返り、思考を修正しようと足掻く。
(いろいろとこいつは俺を搔き回す存在だな)
それが正直な感想だった。
今までだってバリエーション豊富な『修羅場』というものには遭遇してきた。
だが、幽玄は何も感じなかった。
それが何故こんなクラスメイトに絆されるのか──?
クスッと笑う自分がいるのに気付く。
それが何を指しているのかは、気付くのに時間がかからなかった。
「お前ってホント生粋のお人好しなんだな」
そういうと、手招きをする。
「突っ立ってないで座れよ」
そう言い、幽玄は自分の隣を指すかのように、横の場所をポンポンッ叩いた。
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