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「あの、一応ちゃんとした社会人になりたいです」
斑雪は恐る恐る自分の思いを語り出す。
「家族が笑って過ごせるような、そんな暮らししたい。その為には大学も行きたいし社会人になってみんなを安心させたい。それに……」
そこまで言って、言葉を止める。
幽玄は「それに?」とその後の言葉を促した。
「やっぱり自分も家族を作りたい。自分の家族が欲しい……かな。こんな状態でもう夢としか言えないけど」
そこまで言うと、今まで耐えていたものが一気に噴き出したかのように、大粒の涙が伝い落ち、床に一つ、また一つと落ちては弾ける。
「そこまで未来構築ができているのに、あんな兄貴は捨てられないとかアホだろ」
呆れ口調で、幽玄はそう吐き捨てる。だが、その後しばし考え込んでいた。
頬杖を解くこともなく、どこか宙を捉え考え込み時間だけが経過する。
斑雪は、そんな姿を横で見ながらどこか既視感を感じていた。
(誰かに似てる……とか?)
いろいろと考えを巡らせるが決定打は浮かんでこない。
そんなことを多角度から考察していると、考えていた事が思い至ったのか幽玄が口を開いた。
「お前のツケをチャラにしてやる方法がある」
斑雪の方へ視線を落とすその表情に、ギラついたものはない。
それは至って真面目な顔で、そう告げる。
斑雪にとってそれは急な展開で、斑雪は幻聴かと自分の耳を疑った。
「それはまた……とてつもないコトしないといけないんじゃないの!?」
今だって先程弄られた羞恥で、消え入りそうな状態だった。
これ以上何か要求されても、斑雪は堪える自信がない。
その提案を受け入れるのは、斑雪にとってはかなりの恐怖だった。
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