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幽玄は「うーん」と考えながら一つ提案を出す。
「それなら今日はもう帰れ。そして明日ウチへ来い」
「え……ウチ?」
ウチと言われてもピンとこない。
また斑雪からしてみれば、この男が誰かも知らないのである。
「あの……ウチと言われても」
「ああ、場所知らないのか。明日、阿紀良にでも向かわせる」
屋敷の場所が分からないのか、と解釈し幽玄は阿紀良を向かわせることにした。
そして要件だけ端的に告げると、幽玄は立ち上がった。斑雪はまだ聞きたいことか沢山ある。
「待って、あの──」
質問しようと言葉を投げるか、その言葉を幽玄が受け取ることはなかった。
◇
部屋から出て、最初に飛び込んできたのは真っ青な阿紀良の顔だった。
ヘンなところに小心者が出てしまう。
命じられれば、殺しだろうが拷問だろうが顔色一つ変えず嬉々として行うのだが、幽玄に対しての事となると動揺が隠せないのが短所であった。
幽玄は阿紀良のこの気質が気に入らない。
眉間にしわを寄せながら「お前、そのちっせぇ器なんとかしろ」と指摘する。
「いや、でもお前、やっぱそれって、まさか……」
心配事は解消されていない阿紀良は、小声で幽玄に尋ねる。
「もしかして不知火を……」
「あーそっちか。別に何もしてねーよ。あー……、そうでもないかも?」
のらりくらりとかわしながら、考え込むように宙を見上げる。
「おいおいおいおいおい……っ、それってお前!? それじゃあバレたとかいうやつとか!!」
「いやバレてはいない。まぁ色々と考えるところがあるけどな」
クスッと笑いながら歩き出す。
用件など他になかった。そして兄たちの思惑に勘づくと「あーそういうことか」と苦笑する。
「阿紀良、あの男に不知火の借金分、金を渡しておけ。それで手を引けと念押ししろ」
「はっ!? どういう……」
「この件に関してはこれで終わりだ」
そうぴしゃりと言い放ち、他の者にも「戻るぞ」と告げる。
歩きながら、ビクついている店長を一瞥すると阿紀良に「ああ、あのクズ兄貴は好きにしろ」と付け加えて顎で指す。
取り押さえてある兄は、黙らせるように数発喰らっているようで、顔の輪郭が何となく変わっているその男は、傍で押さえつけられ静かにしていた。
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