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あの後、アッサリと斑雪は解放された。
店長である男に「どこへでも行きな。お前にはもう用はない」と吐き捨てる様に告げられ、裏口から叩き出される状態で解放された。
全く意味が分からなかった斑雪だったが、一つ理解できるのは、昨日の男が自分を助けてくれたのではないかという事だった。
家に帰って、玄関の扉を閉めると、その瞬間から脚がガクガクと震えだしその場に座り込む。
「怖かった……」
それが斑雪の本音だった。
ヤクザという人種について、双子の弟妹と同じく斑雪も嫌いではなかった。
だが、改めて自分はヤクザという人たちに過度な夢を見ていたのだと気付かさせる。
その存在は自分たちが思っているものよりも、もっと深い闇なんだと思い知った。できればもう関わりたくないと正直思っていた。
だが、自分がこうして無事帰ってこれたのは、あの男との約束があっての事である。
それを反故にすることは、斑雪の力では無理である。
約束に応じなければ、何をされるか分からない……それはもう避けたかった。
それに、兄は一緒には帰れなかった。その事もできればお願いしたいのである。
どうしても、斑雪は兄を見捨てることができなかった。
「頼み込んで何とか分割でもお金払う事が出来れば……兄さんも何とかなるかもしれない」
そんな期待感に縋るしかない。
気持ちを切り替えて、兄の為に自分が動くしかない、と決意を新たにする。
そんな時だった。家の奥から双子が恐る恐るやってきて、廊下の隅から玄関を見る。
帰ってきたのが斑雪だと気づいた瞬間、二人は大泣きしながら姉に抱き着いた。
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