①普段と違う朝

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「あー……アイツまた実験台にしやがったのか」 幽玄はこの記憶から、大体の事の顛末を理解した。 そもそもアルコールに耐性が付いている幽玄は、泥酔することが無い。 その幽玄が記憶を吹っ飛ばすとか、有り得ないのである。 その理由は、ランの盛ったドラックに集中した。 一体何の調合なのか、どんなものなのか全く分からない。 体の影響なんて知った事ではないが、盛られた事実が幽玄には気に喰わない。 微かに頭痛と不快感が残る。 これは世にいう『二日酔い』という現象なのかとゲッソリする。 「あれ、食べないの? 折角マヨネーズ出したのに」 幽玄はその言葉で我に返る。 目の前に斑雪のぱっちりした瞳が飛び込んできた。 「うわっ! なんだよ、急に!」 「じゃなくて、朝食食べないの……?」 「朝食って……」 手渡されたパンの耳。 何故かマヨネーズ。 幽玄には理解できず、目の前の双子に目を遣る。 幼児ながら逞しくパンの耳にマヨネーズを塗り、ウマウマ言いながら食べ散らかしている図。 どうやらマヨネーズというものは、ジャムかバターの代わりのようである。 「百歩譲ってこの場合は、ジャムとかバターだろう」 幽玄は思ったことを口にした。 その瞬間、三人の視線が突き刺さる。 「これだからパンピーは困るわよ」 「ホントだな、詫び錆を分かってない」 等と、双子に嫌味を言われる。 それを斑雪が「そーいう事言っちゃあダメだよっ! ほら、保育園遅れるから急いで!」と促していた。 (本当にこいつら保育園児なのか?) 幽玄には疑問しか湧かない。 ツッコミどころしかない一家なのである。 しかしこの状況をほぼ把握できていない幽玄は、無言で流れに乗るしかなかった。 初めて食べるパンの耳、そしてマヨネーズという異色な取り合わせ。 それでも案外食えるものだな、と幽玄は納得していた。 食べ進めながら何気に「せめて飲み物無いのか」と尋ねる。 「はぁ!? 転がり込んできた分際でなんて図々しいっ!」 「いっぺん死んでみるか!」 一斉に声を上げたのは、双子だった。 慌てて斑雪は二人を制止し、幽玄に「ごめんねー弟妹が失礼な事言って」と謝る。 どうやら、幽玄の常識はここでは通用しない様子であった。
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