⑧幽玄の戯れ

10/17

110人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
「あのクソ兄の所為で、斑雪がぁぁぁっっっっ!!」 「あんなクズ、死んでしまえぇぇっっっっ!!」 双子の叫んでいることは物騒だったが、その涙は本心だった。 兄である不知火颯(しらぬいそう)は普段家に居ない。 母親はエキストラだがテレビや映画に出演していた。容姿は美しい方だった。 颯はその母親の遺伝子を受け継いだのか、容姿だけはイケメンという類の男だった。 高校を卒業してからは女のところを点在し、ヒモ生活をしている。自由気ままの節操無しがピッタリなダメ男具合であった。 そんな颯でも金がなくなると、家に帰ってきて斑雪に泣き付く。 斑雪もそんな兄は捨て置けばいいものを、兄弟だからと養っている状態だった。 今回、手を出して女が世にいう『美人局』というものだったらしい。その事実に気づいていないのは颯ぐらいであったが、恐喝に怯えまた斑雪に泣き付いたのだ。 普段から貧窮している家計が、もう行き詰ってしまう。 斑雪は校則違反を承知で、ラブホの掃除担当して潜り込んだ。他にいい仕事はいくつかあったのだが、学校から見つからないだろうという予測と、夜なので働きやすさを優先した。 面接へ行ったときに賄いも出してくれると聞き、二つ返事で飛び付いた。 それもこっそりタッパーへ詰めて持って帰っては、弟妹に分けている。 颯もそんな生活なのは知っているはずなのである。だけど、泣き付くという行為を止めることもないし、自立して働こうという意思も全く無かった。 桜輔も桜子も兄である颯が帰ってくると、ろくでもない要求しかしないことは、幼心に理解していた。そしてそれに対して激しい怒りも抱いていた。 大抵は、双子たちが追い出すため損害を免れるのだが、今回はたまたま遊びに出ていた隙に帰ってきていた。 そして双子が帰った時には、斑雪に泣き付く話は既に終わっていたのだ。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加