⑧幽玄の戯れ

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あれこれ考えている時ほど、時間が過ぎるのは早い。 家事も手に付かず、ドタキャンだろうが何だろうがしたくても連絡先すら知らない。 八方塞がりなことに気付いた丁度その時、玄関のドアを叩く音がした。 ビクンッ! と驚きで斑雪の身体が飛び上がる。 最初は軽いノックだが、出るのが少し遅いだけで、その音はノックでは無くなっていく。最後には扉が壊れる勢いまで発展した。 我に返り慌てて斑雪が中から扉を開ける。 そこに立っていたのは至って普通のファッションな阿紀良だった。 昨日のスーツ姿に今日のこれでギャップ萌えしそうになる。無関心無頓着そうに見える斑雪でも、そんな感覚は持ち合わせていた。 今日の阿紀良のファッションは、シャツをベースにモノトーンなキレカジ系でまとめられている。 前髪を無造作に降ろしているのが、見た目年齢を下げてくれているお陰で、斑雪は少し安心感が生まれていた。 昨日の近寄り難い雰囲気と違う年相応な見た目が、これ程安心できるとは意外だった。 「お前居るんならさっさと出て来いよ」 見た目に安心しきっている斑雪に対して、阿紀良は少し不機嫌そうに文句を並べる。 「──……ゴメン」 そんな言葉しか斑雪からは出てこなかった。 大体さっさと出て来いという事自体が無理な話である。 結局、阿紀良が斑雪の同級生であっても、実際プライベートの阿紀良は自分の知っている〝高校生〟ではなかった。 昨日のこともあり、そんな恐怖感が拭えない状態で『迎えに来た』と言われても、身体が竦んでしまう。 直ぐに玄関へ出ることは難しかった。 そんな苦情を言いたい斑雪だが、阿紀良と視線が合い睨まれ、小さく悲鳴を挙げる。 普段、高校生の阿紀良も近寄り難いが、やはりプライベートで服装が変わっても中身は変わらないな、と改めて斑雪は思い知った。
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