110人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
不機嫌そうな阿紀良は、斑雪を一瞥すると『なんでオレが』とブツブツ呟いていた。
「行くぞ! 付いてこい」
そう言われ斑雪はコクンッと頷き、一緒に玄関を出る。
家の前には場違いな高級セダンが止まっていた。
その黒塗りの車を目の当たりにして斑雪も流石に言葉を失う。
もう、見た目からして怪しげなクルマだと思ったが、流石に口に出すことはなかった。
その点は、斑雪も学習している。
乗れと言われ、拒否権もない斑雪は言われるがままクルマに乗り込み、口をつぐんだ。
後部座席に阿紀良と二人で乗っても会話は何一つない。
本気で機嫌が悪いのであろう、阿紀良の独り言のような愚痴が、静かな車内のBGMとなっている。
何かの拷問なのか、と居た堪れなくなって斑雪は阿紀良をチラッチラッと見るが……目が合ったら殺されると思っている斑雪は、それ以上阿紀良と視線を合わせるまではしなかった。
「お前、あいつに何したんだよ」
不意にそんなことを阿紀良から尋ねられ、斑雪はビックリして小さく跳ねる。
「何かって……」
何を指しているのか分らない。何気に昨日の一件を思い出す。そして青くなったり赤くなったりと、焦っている事は阿紀良にも伺い知ることができた。
阿紀良は何気に幽玄との痴情について所要時間に疑問を抱き、眉間のシワは更に増えた。
(でもあんな短時間で?)
そんなこと何気に考えたが、問題はそこではない。
どうでもいい事を考えてしまった自分に呆れ溜息を吐く。
それから阿紀良は、幽玄の変化はいつからなのかと思いを巡らせていた。
(昨日が決定打なのか? いや……違う)
阿紀良はハッと顔を上げ、斑雪をガン見する。
「おいっ! お前……」
そこまで言い、それ以上はタブーだという事に気付き慌てて言葉を止める。
急に声を掛けられ、ビクッと驚きながら反応した斑雪は、恐る恐る阿紀良を見るが……投げかけられた言葉は、止まってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!