⑧幽玄の戯れ

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不機嫌そうな阿紀良は、斑雪を一瞥すると『なんでオレが』とブツブツ呟いていた。 「行くぞ! 付いてこい」 そう言われ斑雪はコクンッと頷き、一緒に玄関を出る。 家の前には場違いな高級セダンが止まっていた。 その黒塗りの車を目の当たりにして斑雪も流石に言葉を失う。 もう、見た目からして怪しげなクルマだと思ったが、流石に口に出すことはなかった。 その点は、斑雪も学習している。 乗れと言われ、拒否権もない斑雪は言われるがままクルマに乗り込み、口をつぐんだ。 後部座席に阿紀良と二人で乗っても会話は何一つない。 本気で機嫌が悪いのであろう、阿紀良の独り言のような愚痴が、静かな車内のBGMとなっている。 何かの拷問なのか、と居た堪れなくなって斑雪は阿紀良をチラッチラッと見るが……目が合ったら殺されると思っている斑雪は、それ以上阿紀良と視線を合わせるまではしなかった。 「お前、あいつに何したんだよ」 不意にそんなことを阿紀良から尋ねられ、斑雪はビックリして小さく跳ねる。 「何かって……」 何を指しているのか分らない。何気に昨日の一件を思い出す。そして青くなったり赤くなったりと、焦っている事は阿紀良にも伺い知ることができた。 阿紀良は何気に幽玄との痴情について所要時間に疑問を抱き、眉間のシワは更に増えた。 (でもあんな短時間で?) そんなこと何気に考えたが、問題はそこではない。 どうでもいい事を考えてしまった自分に呆れ溜息を吐く。 それから阿紀良は、幽玄の変化はいつからなのかと思いを巡らせていた。 (昨日が決定打なのか? いや……違う) 阿紀良はハッと顔を上げ、斑雪をガン見する。 「おいっ! お前……」 そこまで言い、それ以上はタブーだという事に気付き慌てて言葉を止める。 急に声を掛けられ、ビクッと驚きながら反応した斑雪は、恐る恐る阿紀良を見るが……投げかけられた言葉は、止まってしまった。
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