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(ヤバい……もう少しで、オレが海の藻屑と化すところだった)
あの朝帰りを疑ったが、あれは幽玄として斑雪の家に居たのである。
今の阿紀良は不動家三男のお使いでここに居る。
幽玄と結び付けてはいけないことを思い出し、危うく口を滑らしそうになった自分に動揺してしまっていた。
聞きたいのは山々だが、聞けない。
斑雪はその一言で、少し肩の力を抜き勇気を出して阿紀良に質問することにした。
「あのね、恐神くん。昨日の人……私何処かで出会ったことあるかなぁ?」
今度は阿紀良の心臓がドクンッと脈打つ。
「はぁ? お前のオトコ事情なんざ、オレは知らねぇけど」
素っ気ない返答でそれ以上の追求を免れようと呆れ口調で、強めに返す。
その口調には『オレに聞くな』的な意図を含ませていたのだが、斑雪は少々というかかなり天然だった。
察して欲しかったのだが、全くそんな気配をみせなかった。
「でもね、何となく知っている気がして仕方ないの」
気が付けば阿紀良に対して、臆することなく話しかけていた。
気になり過ぎているのか、自分の世界に入っているようである。
そんなこともあり、阿紀良への恐怖心は吹き飛んでいたのだ。
阿紀良は耐えていた。
本音を言えば、自分には一切振って欲しくない話題だったからだ。
ヘタに口にするとボロが出そうな気がしていた。
幽玄の素性はバレてはいけない。阿紀良の最大の使命である。
それなのに──。
「何でアイツはこいつを呼んだんだよっ」
斑雪を呼んだのか全く理解できない。
幽玄からは、これからどうするのかすら教えられていない。
変なところで器の小さい阿紀良は気が気ではなかった。
隣には斑雪という地雷がちょこんと鎮座している。
なんの罰ゲームなのか、と幽玄を脳裏に浮かべ恨んでいた。
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