⑧幽玄の戯れ

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「恐神くんって……やっぱりヤクザ関係者だったんだね」 一通り一人で話しかけていた斑雪が、何気にポツリとそう尋ねる。 その言葉に、阿紀良はピクッと反応した。 阿紀良の親は不動組の幹部で、ちょうど自分が幽玄と同い年というだけで、宛がわれた。 そこに自分の意思はない。 有無を言わさず幽玄の傍で幽玄と一緒にこの世界の事を叩き込まれて、必死になって阿紀良はついてきた。 幽玄の能力の高さは、阿紀良とは比にならなかった。 ここまで呑み込みが早く何でもこなしてしまう人間の傍で、決して出来は悪くない……いや能力的には高い阿紀良だが、いつも劣等感しかない。 大抵の事はソツなくこなす阿紀良が、焦ると急に肝っ玉が小さくなり、何かに動揺してしまうのはその名残である。 幽玄はそんな阿紀良に対して怒るわけでもなく、「お前ってヘンな奴だな」と笑っていた。 普通なら反発心も芽生えるかもしれない。 だが、阿紀良は純粋にそんな幽玄に惹かれた。自分には見せてくれる人間臭さが好きだったのだ。 だから別に自分に対してどうこう思おうが、ヤクザだと偏見を持たれようが気にしなかった。 (この女もその類か) 所詮阿紀良にはその程度でしかない。 (そこまで他と変わらない反応をするこのクラスメイトを何故幽玄は) そんな湧き上がる苛立ちを持て余し、不機嫌値は更に上昇していた。 「お前もそんなにオレらが怖かったら、関わらなければいいんだよ」 苛立ちを吐き捨てる。 「お前のとこの双子のガキだってそうだ。理由は知らねぇけど……これで分かっただろ」 斑雪は少し俯いて、そして言葉無く時間が過ぎる。 少し考えているようだったが、ポツッポツッと話始める。 「お母さんはね、昔女優だったの。エキストラなちょい役でちゃんとした役でもなかったんだけど……。弟も妹もそれを誇りに思ってて、それでヤクザ大好きになっちゃったんだ。私自身もお母さんが出ている映画観て、ヤクザに親近感を持っていたのは確かなの」 そこまで話し、斑雪は少し俯いた。
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