⑨関係性の確立

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しばし言葉は無かった。 斑雪も墓穴は掘りたくはない。その沈黙に倣ってコーヒーをちぴちぴ口にする。 そしてチラッチラッと幽玄を見ていた。 今日の幽玄は、私服姿ではあったが、眼鏡は外し髪をまとめている。 昨日と変わらない容姿に、斑雪はそれが同一人物だと気付かない。 (知ってる気がするんだけどなぁ) 甘いコーヒーを味わいながら、そんな事に思いを巡らす。 「あれからも回収したお前の兄、恨み言をずっと吐き続け叫んでいたらしいぞ」 幽玄は、阿紀良からの報告を口にする。 マグカップを持っていた斑雪の手がビクンッと跳ねた。 「あ、あの……その、兄は……」 「あぁ、まだ生きてる」 その言葉で、最初安堵の表情を見せた斑雪だったが、その顔が急に暗くなると、涙を必死に抑えて幽玄の方を向く。 その言葉がまだ生きていることを告げているのは、読み取れた。裏を返せば死と隣り合わせということである。 幽玄からしてみれば、消されて当然な男なのだが、今回の様に直ぐに処理せず生かしていることが珍しく、ただそれを教えただけのことだった。 だからといって許す気もないし、制裁は必要だった。 幽玄からしてみれば、こんなクズ兄がいなくなれば、斑雪も安心して暮らせると思ったからだ。 だが、斑雪から出た言葉は、幽玄の想像していたものとは違っていた。 「必ずお金はお返ししますっ!! そのっ……兄を、見逃してくれないでしょうか!!」 ビックリして一瞬幽玄は斑雪を二度見してしまった。 「あんなクソの為に人生捧げるっていうのか?」 「確かにそれはそうなんですが……それでも私にとっては家族なんです。もう家族を失いたくない。できる事なら何でもしますから」 必死に訴える斑雪のその言葉に、幽玄は何故か得も言われぬ苛立ちが湧き上がった。
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