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「お前……何でもお気楽に『たぶん何とかなる』的な思想どうにかしろよ」
その言葉に苛立ちが含まれているのを、斑雪は敏感に感じ取る。
「でも……」
「それなら、お前は家族の為なら何でもホイホイ言うこと聞くのか? 自分一人が犠牲だと本当に思ってるのか?」
斑雪はその言葉で、顔を上げる。目の前の男の瞳はどこまでも暗く深い闇だった。
今までこんな目を見た事が無い。
どう返答していいいのか悩み、言葉に困る。そして成す術もなく黙ってしまった。
「お前一人が犠牲になって、皆がハッピーになるんなら、風俗に沈もうが臓器売ろうが何してもいい。そう思ってんならそうしろよ。だが……お前にとって家族ってあのクズな兄だけなのか?」
「…………」
「それでコト済むなら、俺が好きなだけ手を貸してやる」
その瞳は揺らぐことはない。
斑雪が頼めば、今まで言った事は全て現実になるのであろう。
単なる脅しでも何でもないことは、その眼が語っている。
幽玄は、そこまで言って一呼吸置いた。
(こいつは結局何も選べない)
それは分かっていたことだ。もし選択することが出来れば今は違うものになっていただろう。
それは全て分かり切っていた事だった。
(まぁいいか)
想定内な反応に、幽玄の意識は闇の淵から戻る。
(面白そうだから、いいか)
昨日の反応を思い出して、ぷっと吹き出した。
ちょっと煽っただけで、あんなに焦る初心な反応が新鮮だったこともあったが、それ以外にもあることまでは気付かない。
それはちょっとした暇つぶし程度だった。
「俺がお前を飼ってやるよ」
「え……はい?」
びっくりした斑雪が幽玄の顔を更にガン見する。全く持って何を言っているのか理解に苦しみ表情が歪んでしまう。
今まで暗く沈んでいた瞳は、いつの間にか光を取り戻していた。
目の前には、面白そうなオモャを見つけた子供の様に面白がる男が居た。
「あの……飼うという言葉の意味が分からないのですが」
恐る恐る言葉の意味を探る様に尋ねる。地雷を無まないように、細心の注意を払う。
「言葉のままだ。お前面白そうだから」
そう言って幽玄はニッと笑った。
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