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「失礼します、阿紀良です」
扉の向こうから「どうぞ」という言葉を確認し、阿紀良は静かにその扉を開ける。
部屋の中は薄暗く、何台かあるモニターのブルーライトが印象的な室内だった。
部屋自体は思いの外整っている。これで『引きこもりの部屋だ』と言われても、印象が違うと感じてしまう程、落ち着きのある薄暗い室内だった。
他のライトと言えば、大型水槽のネオンぐらいである。
その水槽には、何故か可愛い熱帯魚や勇壮な大型魚ではなく──、一見おとなしそうな中型の魚が数匹泳いでいた。
阿紀良はその魚の種別を知っている。
たまに餌に在り得ないものを与えているのも認識していた。
インテリ系の室内は、実は闇に沈んだ空間である。そしてその場の主がそれ以上の闇であることも認識していた。
「御用はなんですか? 玉響さん」
部屋主である玉響に、お伺いを立てる。
「うん、ちょっといろいろと……ね」
モニターの前に座っていた玉響が、ニヤリと笑うかのように笑みを浮かべ振り向くと、傍にあるソファーに着座を勧める。
断る理由もない阿紀良は、言われるがままその場所に座った。
「何で呼ばれたか……賢い阿紀良ならもう分かってるだろう?」
「推測ですが、このタイミングという事は、ユウが興味を持った相手について──じゃないんですか?」
「ご名答」
嬉しそうに答え、阿紀良と向き合う。
「さっき阿紀良が連れてきた子について、いろいろと教えてほしいんだ。もちろん断る理由もないだろ?」
「勿論です」
(断れないのは分かり切っているくせに)
阿紀良は静かにそう答える。
「キミが素直でよかった。じゃあいろいろと聞かせてもらおうかな」
嬉しそうにそう言うが、全く笑ってない瞳だけが、ブルーライトに反射している。
──それは新たな出来事の幕開けだった。
【続】
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