Ⅰ後編【アナレプシス──回想】

2/18

110人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
「話がある」 そういうと、三人に意識を向けさせる。 白夜と玉響は察したのか、その言葉に抗うことなく向き合う。 幽玄は動かしていた箸を止め、顔を上げた。 「最近どうも不穏な空気が漂っているらしい。お前らも注意しとけ」 直ぐに白夜と玉響はそれが何かに気付き、反論することなく「わかった」と返答する。 幽玄だけが、意味が分からず首を傾げた。 「ふおん……?」 「簡単に言えば、僕たちに対して攻撃してくるバカがいるってことさ」 玉響が噛み砕いて説明する。 そんなことは今までも色々とあった。 何故今更警戒するのか、幽玄には分からない。 「そんなの、いつもの事だろ?」 「んーまぁ、それはそーなんだけどな」 白夜は立ち上がると、幽玄の頭をガシガシに撫でる。 「お前が一番弱っちぃからなぁ」 そんなことを呟きながら苦笑していた。 「オレは問題ないだろう。普段通りに過ごさせてもらうから。幽玄だけだな、注意するのは」 そう言い、「大学行ってくる」と締め括るとさっさと出かけてしまった。 「そうだね、僕は論外だし……。幽玄だけかなぁ、後で僕の部屋へおいで」 玉響も続くように立ち上がる。 「親父さん、もうこれでいいだろ? 僕も失礼するよ」 その言葉に組長は無言で朝餉を進めている。 その態度はいつもの事で、全く気にしていないかのように、玉響も退場してしまった。 幽玄が残され、気まずい雰囲気が流れる。 父親は嫌いではない。ただ苦手なタイプではあった。威厳とも違う何か独特な雰囲気が、子どもであっても接することを躊躇う。 「お前は常に阿紀良と行動を共にしとけ」 そう言われ何となくその場の空気を察した。 「わかりました」 そう告げると、残りのご飯をかけ込み、逃げるかのようにその場から離れてしまった。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加