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◇
幽玄は不服だった。
小学校では、登校時は班になって学校へ向かう。それに何となく憧れていた。
実際、学校まではいつも送迎だった。それについて学校側や保護者は誰も異議を出さない。
とてもヤクザに対して申し立てすることができなかった。
いつも腫物扱いである。それが今日は一段と強かった。
普段は送迎に運転手ぐらいだった。それがスーツ姿の見た目に如何わしい男数人に増えていたのだ。
もう、誰も目すら合わせてくれない。
「ユウ、仕方ないけど……」
何か言いたそうな阿紀良が言葉をかける。
「別にいつもの事だろう」
そう思うしかなかった。だからそう言うしかなかった。
この頃はまだそれでも、何かしら他の児童に交じりたかった思いが幽玄の中にはあった。
だが、それを阿紀良の前で出すわけにはいかない。
なんだかんだ言って、阿紀良はいつも心配してくれているのを知っていたからだった。
その日一日、幽玄は阿紀良以外との会話は一切なかった。
帰りも、迎えは早々と校門の前で待ち伏せていた。
クルマに乗り込み、幽玄は窓の外を眺める。
流れていく景色は、全く違う世界に見えていた。
「同じ場所に住んでるのに別世界にいるようだ」
幽玄はついそんな事を口にしてしまう。
阿紀良は居た堪れなかった。
何もできない自分自身に怒りすら感じ、唇を噛みしめる。
「オレはずっと幽玄の傍に居る」
その言葉が精一杯だった。幽玄の表情がふっと和らぐと「何でもない」と答える。
分かっていることだった。分からないといけないことだった。
この家に生まれた時点で決まっていた。ただそれだけの事だった。
この時点で既に幽玄は朧気には理解していた。
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