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屋敷に着いて、幽玄は自室への廊下を歩く。目の前に何かウロウロしているモノを捉え不思議に思い首を傾げた。
「何してる!」
その声にビクッと反応して、幽玄の方を振り向く。声の主が幽玄だと気付くと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「よかったぁ。部屋がいっぱいあって分かんなくなっちゃって……ねぇトイレってどこ?」
幽玄に尋ねるその子は、可愛らしいワンピースを着た女の子だった。見た目的にも幽玄より年下に見える。
この家では──異色な存在だった。
「お前誰だ?」
こんな来客は聞いていない。
幽玄は首をかしげる。
「わたしは今日お母さんと来たんだけど……あなたはここの子?」
不思議そうに、幽玄を一通り眺めながらそう尋ねる。
「そうだけど」
そこまで聞くと、女の子は申し訳なさそうにモジモジ始めた。
「あの……トイレ先に教えて欲しい」
恥ずかしそうに赤くなりながら、懇願するかのように幽玄にトイレ案内をお願いしする。
「そこ右に曲がったらすぐにある」
指差しながら、トイレの場所を伝えると、女の子は慌ててその方向へ駆け出して行った。
「ヘンなやつ」
それが正直な感想だった。
幽玄も歩き出し、自室に入るとベッドに寝転がる。
何気に事の顛末を考え始め、一つの結論が導き出された。
「朝言ってたアレか? なんか誰かが来るって言ってたやつ」
珍しく全員が集まった、朝食時のことを思い出す。
「でも子どもが来るとか言ってなかったよな」
そんな記憶はないことを再確認すると、幽玄は起き上がった。
「多分ゆら兄なら知ってるかも」
いつも家に引きこもっている兄なら──教えてくれるのではないか、という答えに辿り着く。
取り敢えず、自室から出ると迷わず玉響の部屋へ向かって行った。
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