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レイラさんはキラキラ輝くプラチナブロンドで細くて背が高くてナイスバディでものすごーく綺麗な人だ。ルーマニア人だって聞いてた。
でも実はそれは嘘だった。
実は異世界からやって来た異種族で、この世界の人間とおおむね同じ姿かたちをしているけれども、その生態は人類とは全く異なるそうだ。
レイラさんの一族の女の人は、男の人のお腹に卵を産みつけるんだそう。卵は男の人のお腹の中で自力で子宮のようなものをつくりあげて胎児に育つんだって。
「平均すると大体胃の下のあたりに居場所をつくって落ち着くみたい」
自分で淹れた紅茶を飲みながらそう説明したレイラさんは、そのあともっと怖いことを言う。
「自然にまかせていると子どもは父親の腹を食い破って生まれてくるの。だから父親を殺さないためには、予定日の前に手術で取り出さないといけないの」
「ええと? 人間の赤ん坊が何かを食い破るって、できませんよね? だってまだ歯が生えていないはずですよ?」
赤ん坊って生後1年ぐらいは歯がないんじゃなかったっけ? それとも私の記憶違い?
レイラさんはスマホを取り出して、私にあるものを見せてくれた。
「これが私たちの種族の赤ん坊」
そこにはギザギザした鋭い歯の生えた新生児もどきの写真があった。怖いけど、合成写真じゃないよね?
お兄ちゃんは言った。
「その乳歯は生後間もなく抜けて生え変わるんだそうだ」
「ヨシくんのお腹の超音波画像も見せるね。妊娠7か月のときに撮ったのが一番新しいやつ」
私は胎児の写真とお兄ちゃんとレイラさんを見比べた。レイラさんのウエストはほっそりしていて、とてもじゃないけど7か月の胎児がいるような状態ではない。
対してお兄ちゃんはほんとうに妊婦さんそのものの大きいお腹をしている。
この写真は本当に2人の子どもなの? それとも2人がかりで私を騙そうとしているの? だけどこれが嘘だとしても、そんな嘘をつかなければならない理由がわからない。
レイラさんは困ったように振り向いて、お兄ちゃんを見た。
「ヨシくんどうしよう。アヤちゃん全然信じていないみたいよ?」
「まあそうだろうな。仕方ない。信じなくていいから、とりあえず手術の日は親が来ないようにごまかしてくれ」
「手術はいつ? どこの病院で手術するの?」
「予定では4月の30日。ゴールデンウイークに入ってすぐだな。場所は普通に中央病院だよ。そこのA先生がレイラと同じ世界から来た人でさ。俺の手術の日はオペのスタッフを全部関係者でそろえる手はずが整っているらしい。一応対外的には俺が立ち会ってレイラが帝王切開で出産するということになってる。記録にもそう残る。そうだ、母子手帳見るか?」
見せてもらった。
母:楠木レイラ 父:楠木嘉晴 と書いてある。検診の記録なんかも書き込んであったし、多分本物の気がする。
「聞いていい? 病院のスタッフが異世界人っていったけど、そんなにたくさんこっちに来てるの?」
その質問には、レイラさんは首を横に振った。
「ヨシくんは混血の父親第一号なの。だから無理を言って急遽病院のスタッフを整えるように手をまわしてもらった」
「異世界からってこと?」
「そう。ほんとは最初はヨシくんを一時的にあっちに連れて行って向こうの病院に入院してもらおうかとも思ったんだけど、身重で異世界旅行はちょっとキツいかもと思って……」
聞けば現在中央病院の産婦人科には外国人スタッフが多数集まっている状態になってしまっているらしい。不自然極まりないけれども、レイラさんの同族は見た目ヨーロッパ系だから仕方がないんだって。
どこからどう手をまわしたのかはレイラさんは説明しなかったし、私も聞かなかった。
それでお兄ちゃんはレイラさんの立ち合い出産の際に貧血で倒れて急遽検査入院するっていうシナリオができているらしい。
女性の帝王切開と違って自前の臓器を損傷しない手術だから、入院期間もそんなに長くなくても済むんだって。お腹は切るけどね。
「どうだ? 少しは信じる気になったか?」
「保留で!」
お兄ちゃんの質問に、即座に私はそう答えた。
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