当日

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当日

「あ、いた」  駅前のベンチに腰を下ろしている彼を見つけた。  まだ、気づいてないし、驚かせちゃおっかな。  そんないたずらっ子気分で、後ろから近づいて声をかける。 「ねえ、桐斗」  一瞬、ピクっ、と反応したがこっちを向いてくれない。  あーあ、まただ。気づいてるのに、気づかないふりして。 「ねえ、桐斗!!」  くすっ、と彼は笑い、口を開けた。 「あれ、由梨遅くない? どこだろ」  あえて、見えないようにふるまう。付き合い始めてから、こんなことはしょっちゅう。 「ねえ、きーりーとっ!!」  腕を引っ張り、こちらに顔を向ける。自分の方を見た顔は、息を呑むくらい整っている。 「あ、由梨。そこにいたんだ」 「最初から見えてたくせに」  彼は175センチ、私の身長は155センチ。20センチも身長差がある。 「由梨、ほんとチビじゃん。俺の方が昔は低かったのが嘘みたい」  くすくす笑いながら、私のことを見つめた。 「桐斗のバーカ」 「ごめんごめん」 「いつもそう言ってばっかり。他の女子は甘い言葉を(ささや)いてるのに」 「――――好きだから」  真剣な眼差しでそう告げられ、何も返せなかった。  そうだ、こんな風に恋に落ちたんだ。 「あ、何も言えなくなってる」 「そんなことないし」 「行こ。今、花がめっちゃ咲いてる庭園があって、そこ行こう」  そう言われ、彼は私の手を取って歩き出した。
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