1977年 秋

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高校のグラウンドはプラタナスの並木に囲まれている。 秋になると葉が黄色く色付き、美術教室から見下ろす風景は一面、黄金色(こがねいろ)になっていた。 澄人が、知らない男に車に乗せられそうになった日以来、純一郎は必ずバス停まで澄人を送ることにしていた。バスに乗り込むのを見届けてから、自分は駅へ向かう。 もう純一郎と澄人にとっては、お互いが特別な存在だった。 その雰囲気は、回りにも伝わっていて、美術部の中では二人の仲は、すでに暗黙の了解になっていた。 それがあまりにも自然だったので、男同士であっても、誰も違和感を感じてはいなかった。 純一郎自身も、最初は男である澄人を好きになることにためらいを感じていたが、目の前で他の男に澄人が連れ去られるかもしれない経験をしてから、迷いは消え失せていた。 澄人の側にいて、守りたかった。 その日進路指導の教師に呼ばれていた純一郎は、陽が傾きかけた頃、美術教室に戻ってきた。 澄人が自分を待っている筈だ。 美術教室は東の校舎の一番端にある、広い部屋だ。両側の壁に棚があり、美術部員の作品や、石膏像が置いてある。 突き当りは大きな窓になっていて、運動部のグラウンドが、よく見わたせた。 澄人はぽつんと一人で窓辺にいて、グラウンドを眺めている。他の部員はもう帰ったようだった。 「待たせたな」 「あ、終わったんですか?」 「うん、片付けたら、帰ろうか──何描いてたんだ?」 澄人の手元にはスケッチブックが広げてあり、野球部員を描いた鉛筆デッサンが純一郎の目に留まった。
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