ポータラカへの招待

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 春になり暖かくなったかと思うと急に冷え込む、そんな日が繰り返す4月初旬の夕刻、帰り支度を始めていた渡研の研究室の一同は、壁掛けテレビのニュース速報に思わず目が釘付けになった。  テレビ画面の中で女性のアナウンサーが、真剣な表情と口調で告げた。 「アメリカ航空宇宙局、NASA(ナサ)の発表によれば、大型の隕石もしくは小惑星と推測される物体が地球に接近しています。日本の宇宙航空研究開発機構、JAXA(ジャクサ)も目標を補足しており、日本列島の近くに落下する可能性があるとの情報が入っています」  筒井が自分のデスクの上に身を乗り出して画面を見つめて震える声で言う。 「わわわ、まさか地球滅亡? 恐竜絶滅の時の巨大隕石みたいな事になるんですか?」  しばらくニュースの画面に見入っていた渡が言う。 「全長150メートル、幅80メートルか。この程度の大きさなら大気との摩擦で燃え尽きずに地表に落下する可能性はあるが、まあSF映画みたいな事にはならんだろう。人口密集地を直撃すれば厄介ではあるが」  松田が大気圏突入予測時間を見つめながらつぶやいた。 「地球に衝突するとしても、3日後ですね。仮に日本の陸地に落下するとしても、航空自衛隊のパトリオットを展開させる時間の余裕は十分にあります。もちろん、渡先生のおっしゃるように自衛隊の出番など無いに越したことはないですが」  遠山はカバンに持ち物を詰め込む動作を再開しながら松田に訊いた。 「パトリオットって、あの迎撃ミサイルの事かい?」 「はい、弾道ミサイルを撃ち落とすあれです。隕石なら飛来軌道の予測がし易い分、空中で破壊するのは簡単でしょうね」  そして3日後の朝、渡は自宅の居間でテレビのニュースを見ていた。例の隕石は日本列島上空を通り抜け、間もなく太平洋に落下する軌道である事が正式に発表されていた。 「やれやれ、事なきを得たか。では普段通り出勤だな」  電車に揺られ、大学の正門にたどり着いたところで、渡のスマホがポケットの中で着信音を鳴らしながらブルブルと震えた。  渡はスマホの画面を見て、眉をひそめた。そこには一応登録はしたが、今まで掛かって来たことのない番号からの呼び出しが表示されていた。 「内閣官房からの直通電話だと? 一体何事だ?」  とりあえず通話に出る。しばし相手の言う事に耳を傾けていた渡が、たまらず相手の話を遮って言った。 「ちょっと待って下さい。どうしてまた、あの隕石の件で渡研に話が持ちかけられるんですか? それは私の所の担当ではないでしょう」  相手の返事を聞きながら正門をくぐり抜けた。渡は思わず大声を上げた。近くを歩いていた数人の学生が、ビクッとして一瞬振り返るほどの大声だった。 「大気圏突入直前に減速したですと! 落下ではなく降下? 東京の豊島(としま)区に?」
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