ポータラカへの招待

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「では明らかに人工物だな」  渡は考え事をする時のいつもの癖で、あごひげを指でしごきながらつぶやいた。自衛官は自分もその物体を見上げながら渡に訊いた。 「先生、あれは何だとお考えですか?」  渡はため息交じりに答える。 「それはこちらが訊きたい。だが宇宙から飛来した物だとすれば、これから何が起きるか予測すらつかんな。放射線などの危険は大丈夫なんですか?」 「はい、放射線は計測されていません。微生物などの生物学的汚染も検出されていません」  遠山がタブレットのキーを叩きながら眉をしかめてつぶやいた。 「あの形、どうも見覚えがある。あ、出て来た、これだ」  遠山がタブレットの画面を皆に見せる。そこには素焼きの土器が映っていた。その巨大な物体と、確かに形がよく似ていた。  松田、宮下、筒井も一斉に何かを思い出そうとして目を細めた。宮下が言う。 「あたしも昔学校の教科書か何かで見た覚えが……何だったかしら」  渡が画面を一瞥して言った。 「縄文時代の土偶だ。いわゆる遮光器土偶という奴だな。目の部分が、北極圏の先住民族が使っていたスノーゴーグルのように見えるのでそう呼ばれている。だが縄文時代の土偶とそっくりな物が、今回は宇宙から降って来たというのか?」  宮下が自衛官に訊いた。 「何か周囲に被害は出ていますか? あれほど巨大な物が降下して来たわけですから」  自衛官は素早く首を横に振った。 「それが驚くほど何も被害がないんです。まあ、公園内のフェンスが多少破損したようですが。ただあそこに立っているだけで、何ら動きも変化もありません。一応付近の住民には屋内に留まるよう行政から通知はしてもらっていますが、住民が不安がっているという以外には、何も危険な兆候はありません」
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