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その巨大な土偶の様な物体の周囲は、一戸建ての民家が密集しているため自衛隊の拠点を置く事ができず、近くの寺院の住職が敷地の提供を申し出てくれた。
今では東京では珍しくなった都電荒川線という路面電車の線路を挟んで反対側にあるお寺の敷地に大型テントを複数設置し、渡研のメンバーは交代でテントの一つに泊まり込む事になった。
初日の夜は渡、松田、宮下の3人がテントに詰めた。テントと言っても三角屋根の形をした高さ3メートル、縦横それぞれ6メートルはある頑丈な物で、作業用の机とパソコンを運び込んでもなお、3人がゆったり座れるスペースがあった。
松田が折り畳み式の椅子に座り、机の上のパソコンの設定をしながら、床に座ってコーヒーを飲んでいる渡と宮下に言った。
「現場の監視カメラとこのパソコンを接続して直接様子を見られるようにしてあります。安全のため、あの物体の至近距離にはなるべく行かないように、との事です」
あの巨大物体には何ら変化の兆しがなく、とりあえずその夜は早めに寝る事になった。松田が運んで来た自衛隊用の寝袋にくるまって、3人がようやく眠りについた時、バタバタと足音が近づいて来てテントの入り口から大声がした。
「失礼します!」
テントの入り口がめくり上げられ、若い自衛官が入って来る。あわてて寝袋から上半身を出した3人に、その自衛官は敬礼した後告げた。
「お休みのところ申し訳ありません。あの物体に変化が生じました」
3人は飛び起き、松田がパソコンのモニターをオンにした。そこに映し出された土偶のような物体の頭の上にある装飾塔のような部分が光っていた。
光っているというより、赤、緑、青の光の線が複数、その装飾塔のような部分の表面から少し離れた空間を、輪を描きながら飛び交っていると表現した方が正確な様子だった。
けたたましい鳥の声が辺りに響き渡った。犬の狂ったような吠える声がどこか遠くから聞こえて来た。
渡がその若い自衛官に訊く。
「何か周辺に異常は?」
「付近の犬、猫、鳥などの動物が多数、異常に興奮した様子を見せているようです。しかし、それ以外にはこれといって目立った異常は観測されておりません」
その光の乱舞はわずか10分ほどで急に終わった。テントの外へ出て耳をすました渡たちに聞こえる、動物の声も次第に小さくなり消えて行った。
その後30分ほどパソコンのモニター越しに様子を観察したが、あの巨大物体は何も変わった様子を見せず、その場に静かに立っているだけだった。
渡が腕時計の時刻を見て、深夜12時近くになっているのを確かめ、松田と宮下に言った。
「とりあえずもう一度寝るとしよう。いつまた叩き起こされるか分からん。寝られるうちに寝ておこう」
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