ポータラカへの招待

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 坂田が申し訳なさそうな顔で口をはさんだ。 「こう言ってはご不快でしょうけど、渡先生、それは既に児童虐待ですよ」 「現在の基準ではそうですな。私は自分がそうあったので、児童虐待の本は多少読んできました」 「はい、信仰の自由はそれは尊重されるべきですが、まだ自我が確立していない学童期の子どもに、世間一般の常識とかけ離れた行為を強制するのは今では虐待とみなされます」 「私はお経を詠めるようになるのも早かったし、実母の承認欲求を満たすには都合のいい子どもだったんだろう。それだけならそれほどの苦痛ではなかった。だが私が中学に上がる直前になって、実母から突然こう言われた。来月からお父さんの家でお父さんと一緒に暮らすんだ、と。これでお別れだと」  筒井が鳴き声に近い口調で尋ねた。 「先生は何て返事したんですか?」 「私の意思など尋ねられもしなかったよ。大人が勝手に決めて、一方的に従わされただけだ。実母は多額の手切れ金を渡されてどこかへ引っ越して行った。私はそれまで、年に数回しか会っていなかった父親の家に突然放り込まれた」 「実のお母さんは今どうなさっているんですか?」 「知らん。一切分からん」 「は?」 「実母とはその後一度も会った事すらない。私との連絡は一切途絶えた。今どこにいるのか、そもそも生きているのか死んでいるのか、それすら一切不明だ」 「実のお母さんに会いたくならなかったんですか?」 「我ながら冷めた子どもだったようだな。実母と父親の関係はうすうす知っていたから、私は金と引き換えに母親に捨てられたのだと思った。会いたいだの恋しいだのと思った事は一度もない。向こうだって私に母親としての愛情などなかったんだろうしな」  坂田がまた訊いた。 「本人が納得していない状況で生活環境を一変させるのも、虐待にあたりますよ。それは大変でしたね」  渡は苦笑を浮かべながら首を横に振った。 「いや、これで終わりじゃありません。私が経験した虐待は、ここからが本番です」

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