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紳士淑女の皆々様、ようこそいらっしゃいました、我が桜雲館へ。この度は僕の勝手な都合により──。
如何いたしましたか美弥子夫人、人の話の腰をへし折って。
なに?「オウウンカンとは何だ」でございますか。
ああこれは失礼。僕が勝手に名付けた、この屋敷の名前でございます。桜の雲の館と書いて桜雲館。
周囲をご覧ください。庭のあちこちに植えられた桜の樹が満開に咲き続いて、まるで雲の中にいる様でしょう。青白い月の光を反射させて、妖しく揺れる桜の花の美しさたるや。もしも酔っ払いがうっかりこの庭園に足を踏み入れようものなら、「自分は極楽にでも迷い込んでしまったのか」と勘違いすること間違いなし。
そういうわけで、僕はこの屋敷を桜雲館と名付けたのでございます。お分かりいただけましたかな、美弥子夫人?
では気を取り直して。
この度は僕の都合で、怪奇倶楽部の開催場所を勝手に変更してしまい、誠に申し訳ございません。
怪奇倶楽部は毎月決められた日、決められた時間、決められた場所で開かれる夜会。それに参加できるのは我々華族──その中でも特に猟奇趣味に傾倒している者──だけ。そして集まった者たちは、それぞれが話す悪辣酸鼻な物語に耳を傾ける。怪奇倶楽部はそんな猟奇者たちによる、格式ある宴であるということは重々承知しております。
ですが毎度毎度、開催場所が同じではマンネリというもの。たまには場所を変えてみるのも一興ではないかと思いましてね。
美しい満月と残酷話を肴に、夜桜の下で酔いしれる。これもなかなか、乙なものでございましょう。
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