第二の手紙

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 実はキヨちゃんは少し前から様子がおかしかったのです。  いつもは朝から晩まで、こちらが心配になるほど一生懸命働いているキヨちゃんが、ある日を境に突然元気が無くなってしまったのです。初めのうちは、風邪でも引いてしまったのだろう、と思っていたのですが、なかなか元気になる気配がありません。  なにか悩み事があるのなら、私に相談してちょうだいと言ってみたのですが、キヨちゃんは眉間に皺を寄せて、苦しそうに首を振るのです。  ふっくらしていた頬も次第に痩け、目も虚ろで、まるで病人のようになっていきました。仕事でも些細な失敗が増え、以前の快活なキヨちゃんとは全くの別人です。  それと、様子がおかしくなってからの彼女の行動の中で、二つ気になることがありました。  一つ目はキヨちゃんが主人を避けていること。  これに関しては確証があるわけではありません。ただ、女の勘とでも言えばいいのでしょうか。なんとなく彼女が、意図的に主人と顔を合わさぬようにしていると思えてならなかったのです。主人の方は気が付いていない様子でしたが。  その理由についてはさっぱりわかりません。二人の間に何かがあったのかどうか。浮気という言葉も頭をよぎりましたが(主人のことを疑っているわけではありません。たしかに彼は美しい方ですが、私への愛に一瞬でも翳りが見えたことは、今まで一度だってありません)、結局真相は藪の中。キヨちゃんは何も言わずに屋敷を出て行ってしまいましたから…。  二つ目は、キヨちゃんが屋敷の窓辺から、じっと外の景色を見つめていることです。いいえ、見つめているというよりも、凝視していると言った方が良いのでしょうか。  屋敷の裏側は鬱蒼とした森で、見ていて面白いものなど一つもありません。  それなのにキヨちゃんは、廊下や客間、使用人の部屋など、場所はまちまちですが、顔を窓に貼り付けるようにして、じいっと森の方を凝視しているのです。誰かに注意されればすぐに止めるのですが、注意されなければ、何十分も何時間もその場所に立ち尽くしたまま。  その様子が余りにも不気味で、ほかの使用人たちが怖がっている、という話も耳にしました。  最初のうちは、彼女が何を見ているのか分からなかったのですが、暫くすると、その謎は解けました。
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