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私とキヨちゃんはソファに並んで座りました。
いつの間にか降り出した雨のせいで、外の景色は白くけぶっています。
紅茶の香りが、彼女の心を解きほぐしてくれたのでしょうか。キヨちゃんの顔色には、いくらかの生気が戻ってきています。だけど目は相変わらず伏せられたまま。
「キヨちゃん、あなたはどうして、あの桜の樹を見つめていたの?」
私がそう尋ねると、彼女は驚いた様子で私の顔を見ました。その瞳には、狼狽と恐怖の色がありありと浮かんでいます。
彼女は震える唇を、鯉のように何度かぱくぱくとさせた後、絞り出した声で、
「お、奥様…なんでもないのです、本当に…。ただ少しぼんやりと、外の景色を、見つめていただけでございます。桜なんて…」
「私が右も左も分からぬまま結城家に嫁いできた時に、一番親身になって支えてくれたのがキヨちゃん、あなたよ。だからあなたが、何か悩んでいることがあるのなら、今度は私がキヨちゃんのことを支えてあげたいの。どうかお願い、私にだけ胸の内を話してくださらないかしら」
私はキヨちゃんの手を取り、まっすぐに瞳を見つめながら言いました。
彼女は何も言いません。だけど少し迷っているようでした。今自分を悩ませていることを正直に打ち明けるべきかどうか。
私の方もここは無理に急かしたり、余計な言葉を重ねたりするよりも、こうして彼女の目を見て、自分の真摯な気持ちを伝える方が良いと思いましたので、何も言いませんでした。
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