桜の呼ぶ家

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 はいはい今度は何ですか、美弥子夫人?  なるほど少し肌寒いと。  これは失礼をいたしました。もう春とはいえ、夜風は冷たいですからね。使用人に命じてすぐに毛布をご用意させます…、と言いたいところですが。あいにく現在屋敷には、一人も使用人がおりませんので、なんとか我慢していただきたいと存じます。  なあに、二、三杯お酒を召し上がれば、寒さなんてすぐにお忘れになりますよ。  でももしかするとその寒さは、気温によるものではないのかもしれませんね。  実はこの屋敷、半年ほど前に購入した物なのですが、少し曰く付きでして。 以前にこの屋敷に住んでいた家族──両親とその息子──が、何者かによって惨殺されているのです。遺体が発見された時の状況は、それはそれは惨い有様だったようで。あらゆる犯罪を見て来た老練の刑事も、思わず目を背けてしまうほどだったと聞いております。  しかも奇妙なことに、二十人ほどいた使用人は、なぜか全員忽然と姿を消している。警察では、使用人たちがグルになって家族を殺したのだ、と睨んでいるそうですが、果たしてそんなことあり得るのでしょうか。二十名全員が共犯者だったなんて、そんな馬鹿な話。  被害者が上流階級の人間だったため、警察も懸命に捜査を進めているようですが、屋敷から何かが盗まれた形跡は無く、犯人につながりそうな証拠は一切出てこない。結局今になっても犯人の尻尾すら掴むことが出来ず、警察は地団駄を踏んでいるそうです。
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