聞こえるはずのない声

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「当たり前です! 怖い思いはしたくないし今後も避けたいけど、一人の看護師としてまだまだ頑張りたいですから。霊絡みじゃなくて、生きてる患者さんに頼りにされるようにならなきゃ」  きっぱり言い切ると、先生は頷いてそれ以上何も言わなかった。私は前を向いて、片桐さんの最期の姿を思い浮かべる。  嬉しそうに赤ちゃんを見る姿、麻美さんを撫でている姿。辛い状態で生き続けることが本人のためになるのか分からず心の中で葛藤があったが、少なくとも今回は片桐さんは望んでいたのだ。  無論、これは稀な例だ。患者の数だけ気持ちがあり、人生がある。声を発することが出来なくなった本人の胸の内を知るすべなんて、今のところはない。もしかしたら現状を嘆いているのかもしない。  それでも私達は、今出来ることを必死にやっていくしかない。   「すみません、ご馳走様でした! 先生がご飯食べるレアな姿も見られたし満足です!」 「だから俺を何だと思ってるんだ」 「あの、好きな食べ物何ですか……?」 「唐揚げかな」 「わあ! 意外!」 「なんと答えればよかったんだよ」 「忘年会、行かないんですよね?」
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