聞こえるはずのない声

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「俺だったら無視してたよ。それをちゃんと相手の意思をくみ取ってやったんだ、片桐さんを助けたのは椎名さんだよ。お孫さんに会えたのだってそう。きっと感謝してると思う」  時々思うのだが、先生は顔に似合わず案外人を真っすぐに褒めてくれる。嬉しいより恥ずかしさが勝ってしまった自分は、俯いてハンバーガーを頬張った。  先生ももぐもぐと食べながら、やや困ったように言う。 「しかし、霊に関わるなという意見を覆すことは出来ないけれど、こういう事例が続くと複雑な気持ちにもなるな。そもそも、やはり君は霊を引き寄せやすいと思う」 「え、そ、そうなんですか!?」 「引き寄せる、というか、気に入られやすいの方がいいか。顔にも出やすいし人の良さがにじみ出てるから、向こうも付きまといたくもなるんだろ」 「えええ……」 「病院で働く人間としてはかなり辛いだろう。それでも、続ける?」  先生がこちらを向いて目が合った。私は口腔内にあるものをしっかり飲み込んで、笑顔で頷いて見せる。
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