聞こえるはずのない声

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 白い服を身にまとうと、自然と背筋が伸びたような気がした。ポケットには数本のボールペンと小さなメモ帳をしまい込む。病棟に入ったばかりの頃は、このメモ帳に色んなことを書きなぐっていたけれど、ここ最近出番が少なくなってきたのは、成長した証かな、なんて思ったりもする。とはいえ、まだポケットから出してしまうのは不安がある。ここには色んな情報も書き込んであるのだ。  髪を簡単にひとまとめにした。鏡でその姿をチェックすると、自分はようやく更衣室から出る。ナースシューズを履き、働く病棟へと向かった。  朝早いため、まだ病院内は静かだ。外来の診察が始まっていないのである。日中になると人でごった返す受付も人はいない。そんな間をすり抜けて、私はエレベーターに乗った。  ここで働きだして、もう八か月が過ぎようとしている。外はぐっと寒さが増しており、そろそろクリスマスや年越しに向けて世間は騒ぎ出している。クリスマスケーキやチキンの予約かと思えば、おせちの注文などの広告も。この時期はみんな忙しい。
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