聞こえるはずのない声

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 それは病院にも言えることで、年末年始は慌ただしい。社会人になって初めての冬だが、看護師に休みはない。新しい年に変わるその瞬間も働いてくれる人がいる。病棟で働きながら、気が付いたら年を越していた……なんてことはあるあるらしい。つまり大みそかに夜勤をこなさねばならないということだ。  噂によれば、新人は大みそかの夜勤はなるべく外されるようになっているらしい。でもそれはあくまで噂で、人手がいつでも足りないこの状況ではどうなるか分からない。  エレベーターが到着し病棟へ入る。一気に雰囲気が変わった。独特の匂いに雰囲気、いまだにこの場に足を踏み入れるときは緊張してしまう。気が張るし、気が滅入る。これっていつか慣れるんだろうか。 「おはようございます」  声を出したものの、中には誰もいなかった。私は奥にある休憩室に鞄を置くと、早速受け持ち表を確認する。さて、今日はどんなメンバーかな。  次に行うはパソコンでカルテ閲覧だ。受け持ち患者が今どんな状況か把握しておかねばならない。疾患名は勿論、現在行っている治療、点滴の時間、内服の内容、最近の様子。ざっとそれをカルテから拾う。
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