聞こえるはずのない声

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 少しすると、聞き覚えるのある声がした。やや疲れたそれは、同期である歩美のものだった。 「あ、ひなのおはよー」 「歩美! お疲れ。荒れてた?」 「ううん、今日は平和だったー」  そう言って笑う歩美は、夜勤の人間だったらしい。あまり忙しくなかったようだが、髪は乱れているし目元のメイクは少し崩れている。そりゃ、夜通し働いていたんだ、こうなるのは当然の姿でもある。  彼女は何かカルテで確認したかったのか、隣のパソコンを開いている。画面から視線を外さないまま、私に聞いた。 「ひなのは日勤でしょ? 明日も?」 「そう、今日から三日勤」 「最近落ち着いてるからこのままいくといいねえ」 「ほんとそれ」 「ね、忘年会行くよね?」  聞かれて頷いた。病棟内である忘年会のことだ。 「丁度休みだったし行くよ、歩美も行くでしょ?」 「行く行く! 私は日勤だったから、早く終わらせていきたーい。先生も来ないかなー」  そううっとりとした表情で言った言葉をきいて、どきりと胸が鳴った。彼女が誰のことを言っているのか分かったのだ。
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