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匿名の嫌がらせがあると、人は大抵こう言う。
暇なんだね
面と向かって言えないチキン
わたしのこと大好きじゃん
包丁で鶏ももを叩き切りながら、真帆はうすらと笑みを浮かべた。馬鹿馬鹿しい。低能の極みだ。
暇でもなければ、チキンでもない。ましてや、大好きなど論外だ。嫌いに決まっている。嫌いだから嫌がらせをする。そして、嫌いだからこそファンであるかのように、その動向を逐一チェックするのだ。
ぶつ切りにした鶏肉に調味料をもみこみ、片栗粉をまぶしていく。夫は今日も定時に帰宅するだろう。たまには外食で済ましてきてくれればいいものを。
真帆の夫、英二は真面目な公務員である。結婚するにあたり、真帆が重要視したのは経済力でも容姿でも、ましてや、包容力でもない。英二には、そのどれも備わっていない。大事なのは、詐欺師かそうでないか。もちろん比喩である。
つまり、浮気を完璧な詐欺師のように騙し隠し通せるか否か。
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