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通されたのはピザ屋にはふさわしいとは思えない畳敷きのお座敷である。
用意された座布団に座っていると、サングラスをかけた初老の男が入ってきた。
男と入れ替わりに店員は三指を着いて頭を下げ出ていく。俺は謎の男と2人っきりになった。
「今回は依頼いただき、ありがとうございます。私は焼きの殺し屋、ハツと言います」
「焼きの殺し屋?」
あまりにも馴染みの無い言葉に俺は眉を顰める。
「殺し屋にも色々ありまして、煮ることが専門の煮の殺し屋、切ることが専門の切リの殺し屋、炒めることが専門の炒めの殺し屋など様々です」
ほかの2つはまだわかるが、なんだ、炒めの殺し屋って?
「そして私は焼くことが専門の焼きの殺し屋です。お望みながらレアでもミディアムでも相手を焼くことが出来ます」
そんなステーキみたいな事を言われても困る。
「貴方様はメニューにない焼肉ピザ、それもこれまた店にはないLLサイズを頼んだ。つまり私に家屋を全焼させるような焼きを頼んだということでしょう」
とんでもない曲解が返ってきた。
「それでは殺して欲しい相手について教えてください」
誤解を解こうか迷うが、相手は殺し屋だ。下手をすると殺されるかもしれない。
それなら何とかその場をしのごう、と俺は架空の依頼の内容を話し出す。
「俺が殺して欲しいのはアフロ田桂。奴は俺をパチンコに誘って破産させたんだ」
「……それは自業自得では?」
もっともである。
だが俺はハツを睨みつけて怒鳴った。
「何言ってんだ! 俺はあいつに復讐して、次の台でリベンジしてやるんだ!」
正直、言っている俺もバカバカしい内容である。これなら呆れて門前払いされるだろう。
「わかりました。アフロ田桂ですね。承りました」
まさかの承諾。
「え、いいんですか?」
俺はポカンとする。
「はい。何せ貴方様は私の初の依頼人。これを断る選択肢はありません」
今まで依頼なかったのか。
「必ず、アフロ田桂をこんがり焼いてみせます!」
力強く言うハツに俺は大人しく頷くしかなかった。
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