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第10話 スキル『努力』······よく分かんねえが頑張る事にする
「よく分かんねえけど、俺はそんなんじゃねえぞ」
司教のおっさんと護衛達が俺の事をジロジロ見てくるが、それよりこっちのガズリー達だ。
「んな事よりお漏らし三人組! 震えが止まったんなら裏の川で尻とズボンを洗ってこい! その後でこの絨毯を掃除だ! さっさと行きやがれ!」
「な、何を! おおおお前! 俺は聖騎士だぞ! お前は『努力』とか訳分かんないスキルのくせしやがって! 将来が約束された――」
「良いから早く洗いに行け! いつまでもここにいたら終わんねえだろうが! クソ爺が帰ってくるまでに掃除しておかなきゃ俺が手を抜いたみたいじゃねえか!」
「――ひぃー! う、う、うるさい! 言われなくても!」
今度は鞘付きで突きつけてやったら三人とも飛び上がり、お尻を押さえながら走って教会を出て行った。
まったくよ、デカい染みができてるじゃねえか、しゃーねえまた椅子とか出してしまうか。
「そうだ、司教のおっさん、これで洗礼は終わりだろ? なんか魔物が出てゴタゴタしたけどよ。んで俺のスキル『努力』ってなんなんだ?」
まだジロジロ見てっけど、肩を噛まれて血まみれになってた護衛のおっさんも、なんとか椅子に座れるまで回復したようだし、聞くくらい良いだろ。
「いや、終わりですが洗礼を受けたばかりのケント君が魔物を倒せるという事が······はぁ。そうですね、持ってきているスキルの記された本を調べてみましょう。私も全てのスキルを覚えているわけではありませんからね」
「司教様。私は聞いたことあります。確かスキル『努力』は······言いにくいのですが他のスキルと違い、その分野で飛び抜けて秀でた物ではなくてですね、その言葉通り努力すれば何にでもなれるスキルです」
おお! 良いスキルじゃねえか?
「ですが······あまりにもスキルの成長が遅く微弱なため、万能ではありますがやはり役立つとは······今回魔物を倒せたのも、多少剣術を習っていて、たまたま良いところに剣が当たり倒せたのだと思います」
「な、なんだよ。頑張れば良いだけだろ? これまでと変わんねえよ。ってかいう通りなら魔法も他の武器も色々使えるようになるんだよな!? くぅー、やる気がドバドバ出てきやがった!」
アシアとエリスが護衛の兄ちゃんの言葉を聞いて、心配そうな顔しやがったからな、空元気でも笑っておかねえと。
······はぁ、しゃーねえか、冒険者になるんだ、ちっとばかりみんなより不利だが、それくらい何とでもしてやるさ。
(そうね~、そのスキル『努力』って万能だわね、一つに特化してないから、他のスキル持ちと違って、剣士が魔法使えない、その逆もそうね。だから、その人達よりも、苦手な事が無くなるんだもの、良かったじゃない)
だな、最強の冒険者になるんだ、それくれえは気合いで何とかしてやるさ。
よし、掃除終わらせてクソ爺が帰ってきたら街に冒険者登録しに行くか。
「おう、アシアにエリス。俺は掃除してしまわなきゃなんねえからよ、怖かったのは分かるが離れてくんねえか?」
「あっ! そ、そうね、助けてけれて、かんじゃった······助けてくれてありがとう。本当に怖かったんだから」
アシアはガバッと俺にうずめてた顔を上げて真っ赤な顔でそう言うと。
「そうだね~。私はもうちょっとこのままでも良いんだけど」
エリスは何かクンクン匂いを嗅いでるようだが、それだと掃除できねえよ。
「そうだケント、今夜もクルトのおじさん帰ってこないのよね? そうなら今夜もご飯食べに来なさいよ、父さんに言って大盛りにしてもらうから」
「うふふ。なら私も食べに行っちゃお~っと」
「どうだろうな、まあ、帰ってこなけりゃ食いに行くぞ。ほらほら離れろ」
そう言って頭に手を乗せてくいっと引き剥がしてやる。
「あっ」
「も、もうちょっとー」
二人を引き離し、ひっくり返ってしまった椅子を持ち上げ外へ出ようとしたんだが、司教のおっさんが、引き留める形で話しかけてきた。
「ケント君、君は冒険者になるのですよね?」
「ん? 司教のおっさん、さっき言ってただろ? そのために槍使いのギャスパー師匠に無理言って剣の相手や、クソ爺に剣と体術を見てもらってたんだぜ? ならねえ訳が無いだろ」
「なるほど、クルト司祭の······ならば魔物を相手取る事ができても不思議ではないですね。それと『槍術の才』持ちのギャスパーが師匠ですか――」
(幼い頃から教会の対魔師に教えを受けていたなら、実体化したレイスを倒せるのもあり得るという事ですね······しかしあの姿が変わるのはスキル『努力』の力なのでしょうか? それとも戦いの途中に叫んでいた神剣······何の変哲もないただの剣に見えますが······教会が長年探し求めていた神剣ならば少し調べなければいけませんね)
どうしたんだ司教のおっさんは、なんか難しい顔して悩んでるようだが、目は……クロセルを見てんのか?
「――ところでケント君、この剣はどうしたんだね? 幼い君に刃の付いた物を持たせるようなクルト司祭ではないと思うのですが」
「ん? そうなんだよ、クソ爺が持たせてくれたのは刃もついてない鉄の棒だったぜ、この剣は地下にあったんだよ」
(地下? 確か開かずの扉がこの教会にはありましたね。あったというより、その扉の上に建てたと記憶しています。いえ、教会が総力をもって開けられなかった扉を開けるなどあり得ませんね、確か地下の食料庫がありました。そこに保管されていたクルト司祭が使っている剣の予備でしょう。ですが一応見せてもらいましょうか)
「ケント君、その剣を少し見せてもらう事はできますか?」
なんだ、剣が見たかったのか、それくらいなら司教だし、取り上げることはしねえだろ。
「おう良いぜ。俺はここの片付けをしてしまうからよ、よいしょっと、ほら格好いいだろ? ゆっくり見ててくれ」
俺は背中から鞘付きのまま司教のおっさんに手渡したんだが――。
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