第6話 洗礼が始まるぜ

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第6話 洗礼が始まるぜ

 大盛飯を食い終わり、お腹パンパンだがアシアと、今日は泊まるらしいエリスと別れ、アンラと暗い道を並んで歩き、教会へ帰る。 「なあアンラ。俺は洗礼の後冒険者になるからよ、お前はどうするんだ?」 「どうするって、ついてくわよ? 私ってばケントの眷属になっちゃったんだもん。あなたの魔力がないと死んじゃう······事はないけど、弱くなっちゃうわね~」 (それにケントが死んだ時、魂をもらっちゃうんだから、ちゃ~んとついていって逃さず貰っちゃうもんね~。人間の寿命なんてあっという間だし、少しだけ付き合っちゃうわ)  なんだコイツ、ニタニタ笑いやがって、まあいっか。  俺とアンラを連れて教会に帰ってきたんだが、コイツの寝台が無いな。 「ん~、どうすっかな、アンラ、寝床は木箱を並べてシーツがあれば良いか? 寝台が俺のとクソ爺のしかないんだよ」  まあ寝台って今言った木箱を並べて、ちと分厚い敷物をかけてるだけだからあんまり変わらないんだが。 「別に無くて良いよ~。私は悪魔だよ? 寝るわけ無いじゃん。そだ、暇潰しに本とか無いの? 聖書でも良いよ~。どんな事書いてあるのかちょっと興味あるし」  一応部屋のすみにあった木箱をいくつか並べ、アンラ用の寝台を作ろうとしたんだが、本か。 「ん~、クソ爺の部屋にはあるかもな。俺の向かいの部屋だから、勝手に入って読んでて良いぞ。俺は腹いっぱいで寝みいからよ。じゃあな、本は破くんじゃねえぞ」 「は~い。おやすみ~」  なんか疲れたな、部屋を出ていくアンラを見送り、俺は寝台に飛び乗って寝転がると。  ······やべえ……起きてらんねえ······すぐに······寝て······しま······。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ふぁぁ。朝か?」 「朝だよ~、明け方に誰か来たからさぁ、大人しくここで本読んでたんだけどあんた、寝相悪いわね。二回寝台から落ちてたわよ」  声がかかり、バッと少し身を起こして、顔を声のする方を向けると、俺の寝台にアンラも寝転がり、本を読んでた······俺の腹を枕にして。 「おい、何で俺の腹を枕にして本読んでんだよ」  そう言っても頭は退けず、ページを一枚めくったようだ。 「だから、誰か来たからケントの部屋に戻って来たんだけど、あなた床で寝てたの。だから私が寝台を使わせてもらっただけだよ? で、本読んでたらあなた寝台に這い上がってくるし、また落ちるし? それからほんの少し前にまた這い上がってきたから次は落ちないように頭乗せてあげたって訳よ」 「くっ、まあ、それならしかたねえのか? 良くあることだからな、たまに廊下で寝てる時もあるからな」 (コイツ······起きて外におしっこしに行ったのも覚えてないのかな? 冒険者になったら夜営とかヤバいんじゃないコイツ······)  なにコイツって目で俺を見てくっけどよ、しかたねえだろ……まあ、そのうち治るだろ。 「おっ、それより思い出した、洗礼をしてくれる司教が来るって言ってたからな、今年は三つある近くの村代表で、ここの村でやるからよ、それで訪ねてきたんだな」  洗礼だ、できたら『剣の才能』とか『槍の才能』が良いよな。  後は『魔法の才能』もちと憧れはあるが冒険者に役立つスキルが嬉しいんだが……。 「あなたなら悪魔の私を眷属にしちゃったんだし『悪魔の才能』とかかもね~、後はモテモテみたいだし『女たらしの才能』かもよ」  またページをめくりながらそんな事を言ってくる。 「うるせえ! それより俺の腹の上から頭を上げろや! うりゃ!」  アンラが俺の腹を枕にしてやがったから頭を(はた)こうとしたのだが、コロンと転がり避けやがった。 「女に手を上げるなんて駄目な男だよ! 嫌われちゃうわよ!」  避けたんだが、足の方に頭を移動しただけだ。 「人を枕にする女は駄目じゃないのかよ、まったく……ほら、退きやがれ、朝から近くの村から俺と同じ十二歳のやつらが集まってくるんだ、教会の準備を手伝うからよ、ほらここでそのまま本を読んでても良いから退いてくれ」  しぶしぶといった感じで、アンラが俺の上から起き上がり、本をパタンと閉じた。  寝台から降りた俺は、服を着替え、なんでかついてくるアンラと一緒に礼拝所に向かう。  今年は人数が六人とすげえ多いらしい。  去年、隣村に覗きに行った時も今年は多いって言いながら三人しかいなかったしな。  礼拝所に入り、そこにいたのは王都から来た司教だ、洗礼の専門家で去年も見たおっさんだった。  どちらかって言えば冒険者じゃないのかよって言いたくなる体格で、杖なんか持たずにハンマーとかバトルアックスを持たせた方がぜってえ似合うと思うんだがな。  日も完全に上がり、教会の外には俺と同じ十二歳のやつらが集まりだしてる。  俺は司教と、連れてきていた教会騎士一人と助祭が一人、四人一緒に礼拝所の中で準備を終え、外に出てきた。 「ケント! おはよう。準備手伝ってたの?」 「ケント君、おはよう、いい天気だね、洗礼日和だよ」  アシアとエリスが他の村のやつらと固まっていたのに、俺に気付いて走りよってきた。 (ふ~ん。あの五人が洗礼とやらを受けるのね。ねえケント、なんだか三人の男の子に睨まれてない? あなた苛めたりしてたんじゃないの? 私、そう言うの得意だから協力するわよ?)  馬鹿やろうが! 俺はそんなことしねえよ! ってか、滅茶苦茶にらんできやがるな、喧嘩でも売る気か? 俺は負けねえぞ?  教えてもらった念話ってやつは声を出さなくても良いってのは冒険してっと役に立ちそうだな。  そんな事を考えてたら、目の前にアシア達が立っていた。 「はぁ、もうアイツらしつこいのよ『俺の村に来い』とか言ってるのよ? 村長の孫かなにかしらないけど、嫌だっての」 「そうだよ~。アシアと私好きなのはケンふぐぅ!」 「エ、エリス! 何馬鹿な事言ってるのよ! も、もう! ほらケント! 私達を呼びに来たんじゃないの!?」  くそっ、なんだよアイツら、本気で喧嘩するつもりか? 睨みながら何かコソコソ言ってやがるな。っと今日は待ちに待った洗礼だ、あんな野郎共は、一旦置いておこう。 「そうだ。司教のおっさんが始めるってよ」  仕方ねえ、あの三人も呼ばなきゃな。 「おい! お前らも洗礼の儀が始まんぞ! 教会の中に入ってくれ!」  俺が声をかけたからか、ヒソヒソ話してたんは止めたみたいで、こっちに向かって歩いてきやがる。 「んじゃ俺達も入ろうぜ。遂にスキルをもらえるんだ、楽しみだよな」  仕方ねえとはいえ、睨んでいた奴らも呼んでやらねえと駄目だからな。  ちっ、まだにらんできやがるか……よし、後で絡んできやがったら、返り討ちにしてやるぜ。  俺はアシアとエリスを引き連れ教会に歩きだすと、走って俺を追い越し三人が教会に入っていった。  は? あれは······モヤモヤついてるじゃねえかアイツら······。 (なんかムカつくし、私はやだよー)  しゃあねえ終わってから教会の裏にでも呼び出すか。
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