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青年は、古びたビルの一室に押し込まれた。瓶を奪われ、液体を一口飲まされる。体がみるみるうちに縮んで、幼い男の子の姿になった。
抵抗したが、力が弱まっているので敵わない。縄で体を縛られながら、青年は訊ねた。
「私の薬を、何に使うつもりですか」
「世の中には、若返りたい、若いままでいたいと願っている奴が大勢いるんだ。この薬をたくさん作って売れば、大儲けできるだろう」
「それは、動物の成長や進化の過程を調べるための物なんです。お金儲けの道具ではありませんよ」
青年の訴えに、男は耳を貸さなかった。白髪混じりの髪を搔きあげながら、窓の光に瓶を透かす。
彼は、どこかの研究施設に薬の成分を調べさせるつもりだった。だが、その前に自分で効果を試したい。彼もそろそろ、若返りたいと思う歳頃だ。
青年の鞄には同じ薬が何瓶かある。男は一つを開けると、おそるおそる、唇が湿る程度に舐めてみた。その途端、みるみるうちに髪は黒く染まり、顔のしみは消え、十歳ほど若返ってしまった。男は鏡を見てにやついた。
ところが、四時間ほど経つと、仮面が剥がれ落ちたかのように老け顔に戻った。男はどすどすと部屋に帰ってきて言った。
「どういうことだ。もう元に戻ってしまったじゃないか」
縛られたたままの青年は、けらけらと子供らしく笑った。
「その薬は、若返った年数の二万分の一の時間で効目が切れるのです。昆虫が一ヶ月若返れば二分で、人間が十歳若返れば四時間で元の歳に戻ります。残念でした。ご愁傷様です。お金儲け失敗ですね」
青年の言い方が、男の癪に障った。彼は瓶に入っていた薬を一気に飲み干してしまった。
「そんなにいっぺんに飲んだら、元に戻れなくなりますよ」
目を丸くする青年に、男は鼻で笑ってやった。
「どうせ、二万分の一の時間で効目が切れるんだ。たっぷり飲んでも、すぐに戻れるだろう」
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