ホタルの魂子は百までも!

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 生まれて初めて蛍を見た日の思い出を、あたしは自分で取り出せる記憶として覚えてない。だってそれは三歳の時のことで、物心ついてない頃だったんだから。ほんとのほんとに「世の中に発生して最初」ってことなら、お母さんのお腹の中にいた時ってことにもなる。大きなお腹を撫でながら蛍の光を見て感動したお母さんは、あたしに「蛍」って名前をつけたんだ。  その三歳の時に一緒に蛍を見たのはお母さんだけじゃなく、ママ友とその子供……雪宮蛍も一緒だった。そう、あたしと彼女は同じ名前。だからクラスのみんなは月本蛍なあたしを「ツキホ」、雪宮蛍な彼女を「ユキホ」って呼んでいる。  三つ子の魂百までも、っていうくらいだから……あたしの一生が三歳の時に蛍を見たのと、その時一緒にいたユキホとずーっと繋がっていたのは、三歳から魂に刻まれた必然だったのかもしれないね。  ……言葉の誤用してるって? そんな細かいこと気にしない、気にしな~い!  ユキホはあたしと正反対のめちゃめちゃ大人しい女の子で、あたし以外のクラスメイトとは男女関係なくろくにお喋りすら出来なかった。それで仲間外れにならなかったのはあたしがいつでも一緒にいて、みんなの輪の隅っこにユキホを連れて行ってたから。それでも、クラスメイトの優しさに助けられてもいたかな? そういうのを疎ましく思うクラスの雰囲気だったら通用しなかったんじゃないかなぁ。  ユキホの声は虫が鳴いてるみたいって例えがぴったりで……いや、むしろ虫の声の方がよっぽど大きいんじゃない? ってくらいに細くて頼りない。  彼女と正反対なあたしは地声もおっきくてお喋りが大好き! 一度口を開けたら言いたいことを言い終えるまで止めらんない。  放課後は毎日のように、あの時ホタルを見た、地域の植物園に通っているのだけど、 「ツキホちゃん、元気なのはいいけど、ここにはたくさんの人がみえるから声の大きさだけは今よりもうちょっとだけおさえてね」  って、職員さんに苦笑いされてしまうのだった。  植物園に、それも放課後毎日通うのかって? 実はここ、「日本一小さな植物園」って呼ばれてる場所で、地域住民の憩いの場も兼ねちゃっているのだ!  あたし達に限らず近隣の学校の子供が集まって遊ぶ定番の場所だし、赤ちゃん連れのお母さんのためのキッズスペースもある。徒歩圏内のオフィス街から会社員が昼休憩に寛いでいる姿だって珍しくない。  植物園の事業の一環で、見えない場所でホタルを一年中飼育していて、毎年六月にふれあいイベントを開催してくれている。その時だけは地域の外からも人が来て混雑するけど、あたし達も毎年、行列に並んで生きている蛍の光を見させてもらっていた。
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