君を好きになって良かった

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喫茶店でぼんやり過ごす 本来、素晴らしいはずの時間 「……えっ」 そんな中で スマホから顔をあげてしまうほど はっきり視界に入ったのはクラスメイトの千尋さんだった。 すごく歳の離れたおじさんと喫茶店の窓際の席で向かい合い、話している。 似合わない白いミニスカ、透明の高いヒール。 黒のシャツにネックレス。顔はあまり化粧っ気がないのに無理して大人になったようなちぐはぐな格好。 俺はついさっきまで楽しんでいたプリンのカラメルが口の中で苦くなるのを感じた。 隣の席、学校で いつも気になっていた千尋さんがまさか 「……あの映画面白かったよね ……でー……あの俳優が、そうそうこの前文春で話題になっててさ プライベートの問題と演技は関係ないのにねえ」 「……そーね」 千尋さんは、めっちゃ喋るおじさんに対し はいとかそうねとか同意しかしていない つまらなそうな顔 間違いない、パパ活だ。 「…………」 俺は珈琲を飲みながら考えた。 パパ活やめてくれって店にでたら言う? でも、多分そんなことしてるってことはお金に困っているんだよな やめてくれっていうのは簡単だけど じゃあ代わりにお金を定期的にあげれるんだろうか いやいや、まともにバイトをすすめればいいのかもしれないけど 赤の他人すぎてそもそもそこまで踏み込めない。 仕方なくなり、二人をガン見した。 千尋さん……クラスの一軍みたいな女子とは違うと思ってた。あいつらはまあ、男遊びしまくってそうだけど……そういうのは無縁だと思ってた 大人しくていつも本読んでて でもハブられてる、て陰気にもなってなくて 私には自分の世界がありますよって感じの誇り高い子だったんだ。 なんとかして一軍にいけないかなーて思ってる俺からすると 理想っていうか……そんな人で パパ活ってなあ……よその家庭を壊してるとおもうとなんだか……。 それに危ない目にだってあうかもしれないのに 目先のお金ってそんなに大事かな お金に困ってないからそう思うのかな。 やはりというか、なんというか 喫茶店はおごりらしく、それだけじゃない2万くらいを手渡しているのがみえた。 お金を渡すとこまで見てしまっては……もう パパ活は確実だ…… 俺は凹み、二人が喫茶店をでたのにあわせて そっと外に出る。 勝手に惚れて勝手に幻滅して 他の道を提案するために声かけることもしなくて……俺ってやつは そんな時 しずかな大通り 「あのさあ、こういうパパ活みたいなの、やめない?」 そう大きな声が聞こえた それを言ったのは、俺ではなく千尋さんだった。 帰るために駅へと足を進めていたおじさんが立ち止まる え?どういうこと? 「……っ……お母さんと離婚して悪いと思ってんのか知らないけどさ ずっと上辺だけの赤の他人みたいな会話して 会ってくれてありがとうってお金いつも渡してくるよね そうじゃなくてもっと昔みたいに 私が短いスカートはいてたら、危ないからって叱ってよ学校のこととか友達のこととかきいてよ 私のお父さんであることには変わらないんだから もっと胸を張ってよ このお金は返す 今度は、もっと普通に会って」 そう言われたおじさんの、振り返った瞳には 涙が浮かんでいた。 まじまじとみると、なんとなく 鼻や口の形が似ている気がした。 ……そっか、本当に親子だったのか。 じゃあ、問題ないし俺には関係ないことだな そして…… (やっぱ、千尋さんのこと好きになってよかったんだな) 俺の想いは、間違ってなかったようだ。 end
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