夜咄語るは御伽の住民〜花咲かじいさんの反抗期譚〜

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「枯れ木に花を咲かせましょう。」 ふっとお皿のように広げた手に息を吹きかける。 手に降り積もった灰を風に乗せて上に飛ばす。 すると、みるみるうちに枯れ木から蕾が、そして桜が咲き誇る。 「お仕事ご苦労様です。」 「また、何かありましたらご依頼ください。」 名前も知らない政府の所属だという男の人が一つ礼をして離れていく。 私は一つため息をついて誰もが見惚れるほどの大きな桜の木を無感動に見上げた。 …桜は嫌いだ。 咲いているのを見たら自分の意思とは無関係に感慨深く思ってしまうし、咲いていないのを見たら見たで自分の意思とは無関係に咲かせなくては、と急かされる気持ちになる。 広大な未来を誰かが私を縄で引っ張って道を歩かされる感覚。 この窮屈さが不快だ。 御伽咲楽、前の名前は忘れた。 私のような”呪われた”子達は御伽家の養子となる。 恐らく普通の感覚を持っていると必ず感じる不自由さ、違和感に悩まされる年ごろ。 しかし、それを相談しても御伽家の年上の人たちは口をそろえてこう言う。 「ああ、反抗期が来たんだ。」と。
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