第二章 予兆

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 春敬が言っているのは、小夜が刺客として茂彬の目の前に現れたときの話だ。  あのときの茂彬の判断としては、小夜が何者かに操られているというものだった。  ……実際は、小夜は自らの意志で茂彬を暗殺しようとしていたのだが。 「珊瑚の髪飾りは呪具だったろう?」 「そういえば、あれは……」 「旦那が然るべき手順で解呪してたよ」  そうでしたか、と小夜は呟いた。  綾子は呪具製作においても天賦の才の持ち主だ。  解呪されたならば伝わっているはずだし、さぞ悔しがっていることだろう。 「あとは、お嬢さん自身にかかっている呪いも解けたらいいんだろうけれどねぇ」 「……ご存じでしたか」 「そりゃそうさ。旦那から相談されたんだ」  なお、茂彬は洋装で出かけてから屋敷へは戻ってきていない。  みつによると外国からの客人の接待だという。  芦屋茂彬の、若手実業家としての仕事である。 「まぁ、この屋敷自体が結界みたいなもんだから。もし体に不調をきたすようなら、早めに教えてくれよ。お嬢さんに何かあったら、おいらが殺されちまう」  春敬が大きな動作で伸びをした。 (不調……)  小夜は夢の話をすべきかどうか迷ったが、口を噤む。   目当てのものを見つけたようで小鳥たちは地面をつついていた。    ◆ ◆ ◆ 「小夜さん。無理しなくたっていいのですよ?」 「いいえ、これくらいは」  小夜は、みつと共に屋敷の外へ出かけていた。
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