第一章 選択

11/13
前へ
/46ページ
次へ
 ふたりは細い路地へ入る。   「その役目を担ってきたのが我が一族だ」 「うっ……ひっく……おっかぁ……おっとぉ……」   幼子(おさなご)がうずくまって泣いていた。  否、幼子ではない。  人の気配に気づいたのか、ぐるり、とありえない角度で首を回転させ、背中側に顔の真正面が来る。ぎょろりと異様に大きな目で茂彬たちを認識すると、ききき、と頭が横に傾いた。 「おなか、すいたヨォ。にんげん、たべたいヨォ」  怪異の口がぱくりと開く。歯は鋭く人間よりも多く、咥内は赤黒くぬらりと光る。  茂彬に一切の躊躇いはなかった。 「〈呪符退魔、急急如律令〉」  呪符は主の命に従い、怪異へと向かう。  ばちっ!  口を塞いだ呪符は、そのまま青い炎となって怪異を包み込んだ。  ぶすぶす……。  黒焦げになった怪異はそのまま灰となって風に攫われていく。  茂彬は膝を折り、もう一枚、呪符を懐から取り出した。  縦四本と横五本からなる、格子が描かれている。  僅かに残った灰の上に呪符を置くと、格子は淡く発光し――地面に染み込むようにして消滅した。 「我が一族の使命とは、人々が息災に暮らせるよう、この地を守ること」  立ち上がった茂彬は、小夜と向かい合う。  小夜よりも頭三つ分背の高い茂彬。 「君ならどちらを選ぶ?」 「……どちら、とは」 「人を殺す道か、人を守る道か」
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加