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ふたりは細い路地へ入る。
「その役目を担ってきたのが我が一族だ」
「うっ……ひっく……おっかぁ……おっとぉ……」
幼子がうずくまって泣いていた。
否、幼子ではない。
人の気配に気づいたのか、ぐるり、とありえない角度で首を回転させ、背中側に顔の真正面が来る。ぎょろりと異様に大きな目で茂彬たちを認識すると、ききき、と頭が横に傾いた。
「おなか、すいたヨォ。にんげん、たべたいヨォ」
怪異の口がぱくりと開く。歯は鋭く人間よりも多く、咥内は赤黒くぬらりと光る。
茂彬に一切の躊躇いはなかった。
「〈呪符退魔、急急如律令〉」
呪符は主の命に従い、怪異へと向かう。
ばちっ!
口を塞いだ呪符は、そのまま青い炎となって怪異を包み込んだ。
ぶすぶす……。
黒焦げになった怪異はそのまま灰となって風に攫われていく。
茂彬は膝を折り、もう一枚、呪符を懐から取り出した。
縦四本と横五本からなる、格子が描かれている。
僅かに残った灰の上に呪符を置くと、格子は淡く発光し――地面に染み込むようにして消滅した。
「我が一族の使命とは、人々が息災に暮らせるよう、この地を守ること」
立ち上がった茂彬は、小夜と向かい合う。
小夜よりも頭三つ分背の高い茂彬。
「君ならどちらを選ぶ?」
「……どちら、とは」
「人を殺す道か、人を守る道か」
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