第一章 選択

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 小夜は弾かれたように茂彬を見上げた。  人を殺す道。  人を守る道。  どちらも同じ術を使う。それなのに、対極的。  それはまさしく、太陰太極図(たいいんたいきょくず)の陰と陽でもあった。 「……守りたい、です。わたしに、そんな力があれば、ですが……」 (わたしは、出来損ないだから)  すべての想いを唇に載せることはできなかった。  小夜は、人を殺めることにどうしても抵抗があった。  だからこそ思うように能力を伸ばすことはできなかった。  出来損ないと言われても、恥晒しと罵られても、仕方ないと思って生きてきた。  せめて最期に芦屋茂彬と自爆することで、己の存在意義を確かめようと考えていた。  しかし、今。  ずっと葛藤してきた小夜に、敵である茂彬は、別の道を示してくれている。 「後者を選んでくれてよかった。君にはその可能性がある」 (可能性……?)  屋敷へは歩いて戻ろう、と茂彬は提案した。  少し距離はあるが、歩けない程ではない。  小夜も、体力だけはあるのだ。 「血の匂いがしない夜道を歩くのもいいだろう?」 「……はい」  大通りに出たふたり。  小夜は喧騒を耳に感じながら、ガス燈を見上げた。   (わたしにも、なれるのだろうか。闇を照らすような、明かりに……)
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