49人が本棚に入れています
本棚に追加
小夜は弾かれたように茂彬を見上げた。
人を殺す道。
人を守る道。
どちらも同じ術を使う。それなのに、対極的。
それはまさしく、太陰太極図の陰と陽でもあった。
「……守りたい、です。わたしに、そんな力があれば、ですが……」
(わたしは、出来損ないだから)
すべての想いを唇に載せることはできなかった。
小夜は、人を殺めることにどうしても抵抗があった。
だからこそ思うように能力を伸ばすことはできなかった。
出来損ないと言われても、恥晒しと罵られても、仕方ないと思って生きてきた。
せめて最期に芦屋茂彬と自爆することで、己の存在意義を確かめようと考えていた。
しかし、今。
ずっと葛藤してきた小夜に、敵である茂彬は、別の道を示してくれている。
「後者を選んでくれてよかった。君にはその可能性がある」
(可能性……?)
屋敷へは歩いて戻ろう、と茂彬は提案した。
少し距離はあるが、歩けない程ではない。
小夜も、体力だけはあるのだ。
「血の匂いがしない夜道を歩くのもいいだろう?」
「……はい」
大通りに出たふたり。
小夜は喧騒を耳に感じながら、ガス燈を見上げた。
(わたしにも、なれるのだろうか。闇を照らすような、明かりに……)
最初のコメントを投稿しよう!