第二章 予兆

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第二章 予兆

   ◆ ◆ ◆  芦屋家の世話になることとなった小夜。  居候だからと家事手伝いを申し出たが、茂彬(しげあき)にすぐさま却下された。  当然といえば当然のことだ。  小夜が食事に毒を盛ったり、室内に罠を仕掛けないという確証はない。あくまでも小夜は人質であり、芦屋家に軟禁されているだけなのだ。  それでも必死に食い下がった結果、小夜は、洗濯係を拝命することとなった。  からりと晴れた、中庭の軒先。  みつが洗濯板で肌着を洗い、受け取った小夜はそれを干す。  すべて終わったところでみつが提案した。 「ひと段落したところですし、休憩しましょうか」  手を出すよう促されて、小夜は素直に従う。  ざらざらと手のひらいっぱいに散らばったのは色とりどりの金平糖だった。 (……きれい)  金平糖を見るのは初めてだった。  そもそも、洗濯板も含めて、芦屋家には小夜の知らないものばかり。  芦屋家は異国とも関わりが深いようで、舶来品があちらこちらにあるのだ。 「金平糖っていいます。甘くて美味しいですよ」  小夜は黄色の金平糖をつまんで口に放る。  じゃり、と噛んで崩れる甘さ。 「旦那様が疲れたときに金平糖を食べたがるので、常備しているんです」 「あの……」  小夜は問いかけて、ためらった。しかしみつは察して先回りする。
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