第二章 予兆

2/15
前へ
/46ページ
次へ
「旦那様が暗殺されかけたことなんて両手でも数え切れませんし、その度に徹底的に撃破してきましたよ」  みつは続けた。 「今回、小夜さんをこうやってお手元に置いているのは、なんらかの意図がおありなのでしょう。しかし、それには決して、悪い意味はないと思います」 「わたし……」  ぽろ、と小夜の瞳から涙が落ちた。 「こんな風に人から優しくされたことがなかったんです。ここの家の人たちはどうして、」 「かんたんなことです。お人好しの集まりなんですよ。旦那様もあぁ見えて、懐の広いお方ですから」 「やぁやぁ、こんにちは」 「あら、春敬(はるよし)さん」  ふたりに割って入ったのは、片眼鏡の医師、春敬。  飄々とした様子で、片手を挙げて挨拶してくる。 「こ、こんにちは」 「おっ? だいぶ慣れてきたみたいだねぇ」 「いろいろと手伝ってくださって助かってますよ」  みつは、春敬にも金平糖を差し出す。  礼を述べると同時に、彼はがりがりと豪快に嚙み砕いた。 「まぁ。春敬さんったら、もったいない食べ方をなさいますこと!」 「この食感がたまらないんでさぁ」  頬を膨らますみつと、気に留めない春敬。ふたりのやりとりは年季が入っていて、軽妙だ。 「あ、あの!」  小夜はここに来て最も大きな声を上げた。  ふたりの視線が小夜へと集まる。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加