第二章 予兆

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「春敬さまは、その……怪異専門のお医者さまなのですよね? 陰陽道の基礎があれば、習うことはできますでしょうか……」 「おやおや?」  春敬は距離を詰めて、言葉に迷う小夜の顔を覗き込んだ。  片眼鏡が愉快そうに光る。 「お嬢さん、やけに積極的だね?」 「いえ、その……」 「おいらは構わないけれど、旦那が何て言うかな」 「そんなに張り切りすぎてどうする」 「ほら~。って、旦那!」  さらに現れたのは茂彬だった。  若干、呆れを含んだ声。  茂彬は珍しく、洋装に身を包んでいる。さらには前髪に整髪料をつけて後ろへ流し、額を露わにしている。  はしばみ(ヘーゼル)色の瞳は、声と同じような表情をまとっていた。 「……申し訳ありません」 「いや。別に咎めているのではない。ただもう少し、余裕を持ってもいいのではないか。今まで休日らしい休日などなかったのだろう」 「旦那と同じで、真面目なんですよ」    春敬がのんびりと口を挟んだ。 「そういう旦那だって、この一年ほど、休日をとったのを見たことがないですぜ」 「……それは」  言い淀む茂彬に被せるように、春敬が両手を叩いた。 「あっ! 旦那、いっそのことお嬢さんと遠出でもしてみたらどうですか?」
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