第二章 予兆

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 ぴくり、と春敬の眉が動く。  慌てて小夜は手を振った。 「おやめください。旦那様がお忙しい方なのは、春敬さんがよくご存知ですよね? それに、わたしなんかと」 「分かった。すぐには無理だが、調整しよう」  ところが、茂彬は春敬の提案を受けた。 (ど、どうして)  小夜は戸惑う。  医術を請うただけなのに、何故か、茂彬と出かける流れになっている。  先日の、仕事見学とは訳が違うのではないか。  そう言いたいのに言葉が出てこず口をぱくぱくさせていると、春敬が笑いをかみ殺した。 「お嬢さん、ほんとにかわ……面白いなぁ」  春敬が言い換えたのは、茂彬に睨まれたからであった。 「行く場所は旦那が考えるんですよ。お嬢さんは、外のことも流行も知らないんですから」 「……善処する」 「だってさ。よかったねぇ、お嬢さん」 「い、いえ、そうではなくて」  小夜はなんとか話題を戻そうと試みる。 「芦屋家に置いていただいているからには、人様のお役に立てるようになりたいのです。決して悪用などもいたしません」 「その点においては大丈夫だと思っている」
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