49人が本棚に入れています
本棚に追加
ふぅ、と茂彬が息を吐き出した。
それから、小夜をまっすぐに見つめる。
どきん。小夜の心臓が大きく音を立てた。
(大丈夫、とは。旦那様は、わたしのことを信用してくださっている……?)
ふたりの視線が交差する。
茂彬の感情は読めない。
「くれぐれも、根は詰めないように」
行ってくる、と茂彬は告げて、その場から立ち去った。
「お気をつけて~」
春敬がひらひらと手を振った。
茂彬の姿が見えなくなったところで大きく伸びをする。
「さて、旦那のお許しも出たことだし、また今度勉強になりそうな書物を持ってくるとするか」
「よろしくお願いします」
「そんなかしこまらなくたって大丈夫でさぁ。ま、旦那の言う通り、ほどほどに」
にかっ、と春敬が歯を見せて笑う。
「そうですよ。あまり無理をしてはいけません」
みつも割り込んでくる。
「はい。大丈夫です」
大丈夫。
大丈夫。
この短い時間に耳にして、口にした言葉。
(それは、誰が誰に?)
小夜は空を見上げた。
雲ひとつない、清々しい晴れ空。
◆ ◆ ◆
『……夜。小夜……』
藍色の世界だった。
小夜は気づくと、上下のない空間にいた。
(最後の記憶は、眠る前だった。ということは、ここは、夢……?)
紅い着物を着た女性が小夜の目の前に立っている。
風もないのに銀色の髪がゆらゆらと揺れている様は、ふしぎな光景だった。
「あなたは……?」
最初のコメントを投稿しよう!