49人が本棚に入れています
本棚に追加
問いかけて、小夜は気づく。
女性と認識できるのに、その顔には何もなく、まさしくのっぺらぼう。
ざざぁ、と波打つような音が響き、空間にいくつも浮かぶのは五芒星。
すなわち、小夜が用いる呪符。
五芒星の輪郭は光を帯び宙に舞う。
女性が小夜の胸元を指さした。
「……!」
深々と突き刺さっているのは、一本の太い釘。
(これは、綾子さんがわたしに刻み込んだ呪いの具現化に違いない。ということは)
小夜は顔を上げた。
「もしかして、あなたは」
そこで世界は唐突に終わった。
◆ ◆ ◆
(……夢……いいえ、あれは)
差し込む朝日に、微睡む思考。
布団から出ずに小夜は天井へと右腕を伸ばした。
手のひらを、ぎゅっと握り、拳をつくる。
(わたしが焦がれていたもの。どうして、今になって)
小夜はのそりと布団から這い出た。
与えられた部屋は実家の地下牢よりも遥かに立派で、人間らしい生活を小夜にもたらしていた。
障子を開けると、眩しさのなかに朝のにおいがする。
夜とは違う、柔らかな草木や土のにおいだ。
「欲を出してはだめよ……わたしは、出来損ないなのだから」
ぽつりと零した言葉は朝露のように葉の上に滑り落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!