第二章 予兆

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 問いかけて、小夜は気づく。  女性と認識できるのに、その顔には何もなく、まさしくのっぺらぼう。  ざざぁ、と波打つような音が響き、空間にいくつも浮かぶのは五芒星。  すなわち、小夜が用いる呪符。  五芒星の輪郭は光を帯び宙に舞う。  女性が小夜の胸元を指さした。 「……!」  深々と突き刺さっているのは、一本の太い釘。 (これは、綾子さんがわたしに刻み込んだ呪いの具現化に違いない。ということは)  小夜は顔を上げた。 「もしかして、あなたは」  そこで世界は唐突に終わった。    ◆ ◆ ◆ (……夢……いいえ、あれは)  差し込む朝日に、微睡む思考。  布団から出ずに小夜は天井へと右腕を伸ばした。  手のひらを、ぎゅっと握り、拳をつくる。 (わたしが焦がれていたもの。どうして、今になって)  小夜はのそりと布団から這い出た。  与えられた部屋は実家の地下牢よりも遥かに立派で、人間らしい生活を小夜にもたらしていた。  障子を開けると、眩しさのなかに朝のにおいがする。  夜とは違う、柔らかな草木や土のにおいだ。 「欲を出してはだめよ……わたしは、出来損ないなのだから」  ぽつりと零した言葉は朝露のように葉の上に滑り落ちた。
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