第二章 予兆

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 小夜の感情が揺れ動いたのには、理由がある。  綾子が持っていて小夜にないもの。  すなわち――契約を交わした陰陽師でしか使役できない式神だ。  小夜が契約に至っていないのは、力量不足だと言われてきた。  しかし小夜は今、初めて見たのだ。小夜の名を呼ぶ、存在を……。    ◆ ◆ ◆  芦屋家の縁側。  暖かな陽ざしを浴びながら、小夜と春敬は並んで座っていた。 「入門書としてはこれをお勧めするかな」 「ありがとうございます」  春敬が持ってきたのは年季の入った数冊の書物。  小夜は一冊を手に取った。  紙をめくる音が庭に響く。 「とても分かりやすいです」 「うんうん、それならよかった。いきなり実戦は難しいと思うから、まずは知識を頭に入れるといいよ」  小鳥が二羽、どこからともなくやってきて地面の上で何かを探しはじめる。 「時々、医者の手に負えない病気や怪我について芦屋家に相談が来ることがある。怪異が原因だと判断された場合、旦那からおいらに仕事の依頼が来るって訳。もしくは、旦那が、怪異に襲われた人間を助けた場合の治療」  ぴっ、と春敬が右人差し指を立てた。 「後者は、たとえばお嬢さんを助けたときなんかがそうだね」
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